2014年3月12日水曜日

盗賊の酒場 【9】

ラットウェイの中は住民の噂通りゴミためといった印象だった。私を見て金になると襲いかかるだけなら飽きたらず、死体にしてからたっぷり犯してやるぜと剣を振るってきた。


ゴミは
ゴミ箱に
拳で語り合う気はない
そんなこんなで掃き溜めの害虫共をしっかり駆除しながら奥へ奥へと進んでいくと、扉があったので開いてみる。すると突然視界が開けた。どうやらここがラグドフラゴンらしい。


案外綺麗な場所
バーも営業中のようだ
なかなか雰囲気はいい
まさか都市の下にこんな犯罪集団のアジトがあるなど、誰が予想するだろうか。なんだか意外とアットホームな雰囲気で、殺伐とした空気はあまり感じない。昨晩止まった酒場のほうが、よほど空気が悪いくらいだ。

だがそれでも多少はもめていることもあるようで、着いた直後にはギルドの存続がどうこうと話していた。

「このままじゃうちのギルドは歴史の闇に消えていくことになるぞ」

デルビンというハゲがブリニョルフにそう申し立てている。話を聞くに、盗賊ギルドというたいそうな組織は、今ここに至ってはあまり状況が良くないらしい。新人の減少や、取引先が極端に減っているそうなのだ。

「希望の光などない? ならばこれはどう説明するんだ」

横に立っていた私の腕をひっぱると、私の頭をぽんぽんと叩いた。

「誰だこの小娘は」

とハゲが尋ねる。

「驚けデルビン。こいつはうちのギルドの新人候補だ」
「ほう。この子供がか」
「ほら挨拶しろ小娘」
「この度、このブリニョルフという男に勧誘を受けて盗賊ギルドに志願しました。エルゥ・エンデューロといいます。よろしく」

久々に子供扱いされて複雑ながらも、初めが肝心だと思いしっかりと挨拶をする。

「本気で言っているのか? こんなガキが希望だと?」

ブリニョルフに厳しく問い詰めるデルビンは、今にも剣でも抜きそうな勢いだ。使えそうな新人が来たと思ったら、年端もいかないガキでは確かにそうなるだろう。だけれど私にも意地がある。

「脚折洞窟のハグレイブンって知ってる? おじさん」
「知ってるが、それがなんだ」
「あれ、リフテンに来るまでに始末したよ。それと、今日ブラン・シェイが捕まったけど、あれをやったのも私。盗賊ギルドに加入する最低条件は満たしていると思うのだけど?」

そう言うと、デルビンはしばし考えこむ。それからゆっくりと口を開いた。

「ハグレイブンの件は事実の確認など出来ん。まあ、このメンツの中で嘘をつけるのならそれはそれでいい度胸をしている」
「そうだろう。こいつな、俺に初めて会った時に俺をゆすりだと思ったのか、笑いながら取れるもんなら取ってみなと言わんばかりの行動をしたのさ。その辺の子供にやれることじゃないだろう?」

私の頭をぐりぐりと撫で回しながら、デルビンを説得するブリニョルフの眼光には、意外なことに打算は見えなかった。つまり、私が子供であることに、こだわっていないのだ。

これには驚きと、喜びが同時に沸き上がってくるのを感じた。自分のことを認めてもらえるというのは、これほどまでに嬉しいものなのかと。

「そうだな、認めてもいいがもう一仕事こなしてもらおうか」

デルビンは私の頭の高さに腰を落として、目線を落としてゆっくりと告げる。

「えーっ! これで認められたと思ったのに!」
「なに、簡単な仕事だ。上の商店の連中が借金を俺達にしているのに払ってない。それを取り立てて来るだけだ」
「なにそれ。私もクズだと他の人に知らしめることになるじゃない」
「このギルドに入りに来ようとする時点で悪党だ」
「私はパパの消息を探しに来ただけだし!」

するとデルビンは訝しげな目でブリニョルフを見る。バトンタッチと言わんばかりにブリニョルフが私の頭をなでた。

「なあエルゥ。こう考えたらどうだ? どんな悪名だろうと轟けば、お前のパパがお前を見つけてくれるかもしれないだろう」

一理あると思った。

「目的のために手段を選ぶなってこと?」
「それはちょっと違うな。出来ることはなんでもするのさ」
言われて確かに、と思う。
「わかった。じゃあ取り立てに行ってくる。でもその前に聞かせて」
「なんだ?」

なんでも言ってみろ、と言わんばかりにブリニョルフは私を見下ろす。

「すんごく偏屈でハゲてて意味の分かんないことしゃべりまくるおじさんのこと、知らない?」

彼はしばし考えた末に、少しばかり笑った。

「お前の親父さん、スクーマ(麻薬)で狂っちまったのか?」
「多分違うけど」
「その程度の情報じゃさすがにわからんな。それって狂人を探せってことと一緒だぞ。その辺にいくらでも転がってる」
「……そっか」
「まあ落ち込むな。俺達盗賊ギルドとお前の悪名をスカイリムに響かせれば、見つかるのなんざあっという間さ。さ、行って来い」
「絶対調べてよね!」

そう叫んで、私は自分の手に先ほどの盗賊から奪った手袋をはめる。気分だけでも、手は汚したくないからだ。

ラグドフラゴン。ここから私の盗賊としての人生が始まるなんて、その時はまだわかっていなかった。

チャンスのお膳立て 【8】

とりあえず休む場所を探そう、そう思って酒場付きの宿に入ると、いきなり何かの司祭が酒場には似つかわしくない演説をしていた。曰く、ここは悪の巣窟だのたまり場だの。どうやらマーラという神の司祭らしいが、どうにも言い方が荒っぽい。それでは信者なんぞ獲得できるわけがないだろう。


愛の神なら悪人も神の愛に包まれるべき存在なのです、とか色々言い方があるだろうに。思うにこの人は必死でこの都市を良くしようと思っているのだろうが、悪人に悪人だと説いたところで心を入れ替えるはずがない。自覚してやっているものが大半だからだ。もしも自覚せずに悪事を働く人間がいるならば、それは常識が違う国で育ったか、ただの狂人である。

目が怖い

初めてアルゴニアンに出会ったので、最初は驚いてしまった。しかし彼が他の客の注文を受けたり、先ほどの司祭を追い出したのを見ていると、どうやら普通の人と同じように会話が出来るらしい。偏見というのを改めなければいけない。

とりあえず情報を集めようとこのアルゴニアンに盗賊ギルドのことを聞くと、予想通りの言葉が返ってきた。それにしてもこの都市、盗賊ギルドのせいでこうなったというが、それは多分半分くらいしか当たっていないのだろう。盗賊ギルドが勢力を拡大するには、必ず何らかの後ろ盾が必要だ。それを後押しした人間達が、今の自分たちの環境を作っているはずだ。結局のところ、彼らは自分達の無責任さと力の無さから逃げているようにしか私には思えない。

そんなんだからしみったれのクソッタレな宿なんだよ爬虫類

一泊しようと女将に尋ねるとあまりにも即物的な物言いをするので頭にきてしまう。そんなんだから繁盛しないんだよ、と言いたくなってしまうがグッと堪えた。今日は疲れているし、口喧嘩をするのも面倒だからだ。

馬小屋のほうがまだ牧草でふかふかだ


案内された部屋は田舎の安宿と大して変わりはしなかった。これなら田舎のほうがよっぽどマシだ。なぜなら、汚い言葉を吐きかけられることがないからだ。

翌朝、宿から出ると突然男に話しかけられた。

いろんな動画でイケメンと評判

「悪いけど、今なんて?」
「まともな手段で金を稼いだことなんて一度もないんじゃないかって言ったのさ」
「山賊を殺して金を稼ごうがなんだろうが、関係ないでしょ」
「それが間違いなのさ。金を稼ぐ事こそ俺の仕事だからな」
「何? 恐喝? ジャンプしたほうがいいの? いくらでも跳んであげるわよほら」

口の端をあげて跳ねると、荷物の中に入れたゴールドが綺麗な音を立てる。そんな私の姿を見て、この男は小さく笑った。

「豪胆だな。そんなお前にピッタリの仕事があるんだ。やってみないか?」

私は直感的に、この男は盗賊ギルドの人間だろうと気づいた。他所から来た私に突然話しかけ、仕事の依頼をしてくるなど普通ならありえない。そういうことは、信頼した人間にするものだ。

つまりこの男は、使い捨てられる人間を探しているのだ。不始末が起こったら、すぐに知らんぷりを出来る人間を。

そんな人材を必要とする組織など一つしかない。確実に、盗賊ギルドの人間だ。

「やってもいいよ。そしたらあなたの組織に入れてもらえる?」
「そいつは願ったり叶ったりだね。じゃあまず、仕事の説明をしよう」

漂うヤクザの若頭臭
「それからその指輪をブラン・シェイという男のポケットに滑りこませろ」
「あぁ。そいつが邪魔なのね。面倒なことをする」
「俺達は人の命まで盗まないことだけが誇りだからな」
「へーそうなんだ。まあいいや、やればいいんでしょ。ただ聞きたいこともあるから、それにも答えてよ」
「いいだろう。ただし、俺達を告発するつもりならお前が監獄に行くことになる」
「そんなんじゃないよ。ただの人探しだ」
「奇妙な奴だな。まあいいだろう。とにかく仕事を始めるぞ」
「わかったよ」
「聞き忘れていたが、鍵開けは得意か?」
「ピックが3本あったら4つの箱が開くと思ってほしいね」
「そりゃすごい。せいぜいその仕事ぶりを見せてもらおうか」

いそいそと自分の屋台に向かうブリニョルフを見ながら、ポケットの中で鍵開け用のピックを弄ぶ。鍵開けは得意なのだ。手に伝わってくる感触と、音さえ聞き分けられば難しいことはない。捻って、回すだけ。とある空中都市が舞台の物語の登場人物のように、華麗に鍵を開けることを約束しよう。

屋台で声を張り上げて胡散臭い商品の説明をし始めると、ブリニョルフの周りに見る見るうちに人が集まってきた。ファルメルの血液がどうとか、万能だとかしゃべっている。あんな商品で人を集められるんなら、彼には案外、商才があるのではないだろうか。

ブリニョルフの周りの野次馬の後ろでひと通り「わーすごーい」「そういうのがほしかったのー」とサクラをした後、素早くマデシというアルゴニアンの商人の金庫を開ける。中には指輪の他に結構な量のゴールドが入っていたので、それもついでに戴いていく。悪いことをしていると自覚すると、自制心などというものはあっという間に崩れてしまうことを実感した。

それから野次馬の列に戻って、目的の男のポケットにするりとそれを滑りこませる。

仕事が済んだとブリニョルフにウィンクして伝えると、彼は「今日はもう在庫切れだ、皆さんありがとう!」と叫んで客を散らした。
歩み寄ってくるブリニョルフに小さな手で輪っかを作ると、彼はやっと私に笑いかけた。

「やるじゃないか小娘。俺達の組織に加わるなら、地下のラットウェイという下水道を抜けた先のラグドフラゴンという酒場に来い」
「先に情報を教えて欲しいんだけど?」
「俺とお前がここで接触していたら、バレちまうかもしれないだろう」

遠くで衛兵がブラン・シェイを捕まえる声が聞こえる。

「それもそうね。じゃ、あとで行くから」
「待っているぞ小娘。影と共にあれ」

会話を終えると、彼はさっさとどこかへ消えてしまった。次に目で彼の姿を探した時には、すでにいなくなってしまっていたのだ。

「けっこー凄腕?」

そこら中を見渡してから、呆然と私は呟いた。

2014年3月11日火曜日

リフテンまでの旅路 【7】

道なりに歩いて行くとはるか遠くにホワイトランが見える。ホワイトランはスカイリムの中心に位置する交易都市だそうだ。本来ならばリバーウッドへホワイトランを経由していくのが定石なのだが、今回は隠れ家で十分に休息と荷物の整理を済ませたこともあり、そのままリバーウッドへと向かう。ちなみにドラゴンに襲撃を受けたとホワイトランへ報告するようにとハドバルに言われたが、アルヴォアさんの鶴の一声でハドバルがそっちへ向かったらしい。


わかりにくいが夕暮れ数刻前である

街道の分岐点近くに馬屋があったので、少しだけホワイトランに近づいてみた。この辺りは衛兵も頻ぱんに街道を警戒し、産業も豊富なようだ。酒造所や農園が立ち並び、通りすがっただけでもこの都市が豊かで恵まれていることが分かる。


ちべたぁい!
途中何度か山賊や野良魔術師(死霊術師?)の襲撃を受けながらも、なんとか死に絶えることなく道を進んでいく。回復魔法と治癒のポーションを作りこんでいたのが幸いした。


魔法で道標は明るくなっている
この看板の右上にあるリフテンへ向かうのが私の目的だ。看板にいくつもの都市名が書いてあることから鑑みるに、まだまだ先は遠そうだ。それだけ経由点があるということなのだから。


こちらを見ている巨人
途中、巨人の野営地を通り過ぎた。それにしてもこの巨人というのは奇妙な存在だ。ある程度の道具を持ち、家畜を飼い、もみあげを三つ編みにしたりなんかして、とてもただの野蛮な種族とは思えない。人間に攻撃されるから郊外に住んでいるだけで、実は案外、温厚な種族なのかもしれない。何より、こちらが彼らのテリトリーに踏み込まなければ攻撃をしてこないのもその裏付けのように思える。時折人間が襲われることがあるが、それは彼らの主権を侵害しているからなのではないだろうか。彼らは人間という外敵から自衛しようとしているだけに見える。


碧い天の川
大分リフテンの近くまで来た。あと少しのはずだ。丸々一晩かかってしまいそうだ。そんな折、街道のすぐそばに洞窟を見つけたので休憩がてら覗いてみようと思って足を踏み入れた。だがこれは間違いだったようだ。



「ぎゃおぉおおおおおおおおおおおおおッ!?」

洞窟に入ってすぐ眼前にあったのは、スキーヴァー(ネズミ)の串刺しだ。暗さに目が慣れてすぐに視界に入ったのがこれだったので、凄まじく絶叫してしまった。するとその絶叫でこの洞窟にいたネズミ達が一斉に自分の方に向かってきたのだから泣き面に蜂だ。クレイモアですっぱりとスキーヴァーを分断しながら、さらに奥へと進む。奥の方から警戒する人の声が聞こえてきたからだ。
中は天魔外道の巣窟だった。いわゆるはぐれ魔術師達の根城のようだ。最初はやりあうつもりはなかったのだが、彼女らに殺された白骨死体が目に入って頭に血がのぼり、血祭りにあげてしまった。ふざけたことに、最奥部にはハグレイブンまでもがいた。ハグレイブンとは女魔術師が更なる力を求め、外法を使って化け物に身を貶した存在である。
幸いにもハグレイブンと敵対する自然の妖精(化け物)スプリガンが檻に閉じ込められて拷問されていたので、ちょちょいと開放してやると、凄まじい勢いで魔女共を皆殺しにし始めた。


次の獲物を求めるスプリガン△
このスプリガン、私が剣を抜くよりも早く魔女を始末してしまうんだから恐ろしい。ハグレイブンでさえも一蹴してしまう圧倒的な力を持っている。



魔女の遺品をあらかた簒奪して、スプリガンの後を追って洞窟を出ると、日が昇りかけていた。そういえば先ほどのスプリガンはどこに行ったのだろうと思って見渡してみるが、すでにそばにはいなかった。森へ帰ったのだろう。


旅人との出会い
途中、私と同じ放浪者と出会った。彼は吟遊詩人らしく、なぜ旅をしているのかと問うと、素晴らしい答えが帰ってきた。「詩を作るものが、なぜ自分の体験していないことを詩に出来るのだ? だから俺は旅をして、自分で戦ってそれを詩にするのだ」と。これには常識を壊されるような衝撃を受けた。吟遊詩人といえばちゃらんぽらんなイメージがあったからだ。思うに、彼のような硬派な吟遊詩人だけが後世に詩を残せるのだろう。その歌声を聞かせてもらい、満たされた私は彼にゴールドとお礼を言って別れた。


リフテン地域の監視塔
リフテンの管轄する地域に足を踏み入れた。初めて見るリフテンの文様は、紫色でなんだか高貴な感じがしないでもない。この監視塔にいる衛兵に道を聞こうと登ろうとしたところ、とんでもないものが目に入ってきた。


カッコイイ死に様
矢でも受けたのだろうか
衛兵は全員死んでいたのだ。


監視塔内部のメモ
どうやら、帝国兵の侵略を受けて全滅していたらしい。ということはおそらく、この辺りに帝国軍は野営地をおいているはずだ。リフテンの首長も、まさか自分の領地に野営地があるなどとは思っていないだろう。リフテンに着いたら首長に教えなくてはいけないな。


着いたのは結局夕暮れ

こうして2日に至る道のりを歩き通した私は、ついにリフテンについた。しかしこのリフテンの入り口にいる衛兵が、とんでもなくクズだった。通行税を払えというのだ。まるで山賊のようなことを言うので「わかった。ここではこういうことになっているのね。後でちゃんと払っておきましたって首長に言っておくわ」というと「わかったわかったよ。通れ、鍵を開けてやる」とやっと通らせてくれた。どうやらリフテンはうわさ通りのようだ。薄汚い奴らの集まり。


入ってすぐにこれだ
だがここでこそ、父への手がかりが掴める。
怖気づきそうになる心に鞭入れて、私はこの町の宿屋で休息を取りに向かった。

2014年3月10日月曜日

見知らぬ誰かの洞窟 【6】

アルヴォアに鍛冶のことを教えてもらいながら3日ほどゆっくりした私は、リバーウッドから出ることにした。いつまでもここにいても父の手がかりは得られなかったし、これ以上お邪魔をしても悪いと思ったからだ。正直、この村から出るのは辛かった。みんな私と家族のように接してくれたからだ。何ヶ月ぶりかに味わう人との繋がりはとてもあたたかく、荒んだ私の心を癒してくれた。だけれどもこのまま踏み出さなければ、きっと本来の目的を忘れてしまいそうになるからだ。


アルヴォアの家の一人娘、ドルテには行かないで欲しいと熱心に引き留められたがそうも行かない。またちょくちょく遊びに来るよと告げ、私はアルヴォアの家を出た。

次の目的地はリフテンだ。村の人達に色々話を聞いた結果、そこに盗賊ギルドなる後ろ暗い組織があると聞いたからだ。あんなところに行くのはやめなさいと様々な人から叱るように言われる。噂だけでもかなり酷い場所だと予想がついた。だが元よりそういう覚悟でここに来ているのだ。私が死んでも悲しむ人などいない。これほど自由なことはない。

リバーウッドを出てしばらく歩くと、街道から川を覗こうとして足を滑らせた。膝を擦りむいたが幸い大きな怪我はなかった。しかし、出だしから何をしてるんだ私は、と少々おかしくなってしまった。こんなことでこれから先、旅を続けていけるのだろうか。

だがそこには思いもしないことに、洞窟があったのだ。





中には誰かの白骨死体があった。名前をRayekというらしい。この白骨死体の側のナップサックには遺書と思われる文章が入っていた。それによると、この場所を次に来た人物に託すということだ。だが、この場所の秘密を探り当てた者にのみ、引き渡すということらしい。




動物の革を加工する台と薪割り場所があったが、それ以外にめぼしい場所はない。しかしわざわざ秘密の場所と書くくらいなのだから、まだ何かあるのだろう。

滝の裏が怪しいと踏んだ私は、濡れるのも構わず滝の奥に進んだ。すると、水面の下の足元に何かのレバーがあるのを見つけた。ははぁこれだな、と思ってそれを捻ると、驚くことに岩が動き、奥へと続く細長い部屋が現れたのだ。


細長い長屋のような構造


この洞窟の持ち主の剣だろう


初めての錬金術
「凄い!」
思わず声に出して叫んでしまうほど、ここの設備は素晴らしかった。錬金術をするための施設、鍛冶を行うための施設、エンチャントを行うための施設、本棚、お風呂、くつろげるスペースまで、何から何まで揃っていた。ここを隠れ家として自分の拠点とすることを決めた私は、錬金術の素材や鍛冶に必要な物を全てここに置いておくことにした。


水のせせらぎで寝やすいベッド(固いが)
こうして私がスカイリムに来て初めての一週間は過ぎた。
夜になるまでここで状況整理と情報を整理して、それからリフテンを目指そう。

2014年3月9日日曜日

リバーウッドとアルヴォアさん 【5】

リバーウッドの目前でオオカミに襲われたが難なくそれを始末した。
凶暴なオオカミが街道沿いを徘徊している
内戦の影響だろうか、街道沿いにまでオオカミが出没している。街道の安全確保に人員を割けるほど、衛兵はいないのだろう。村のすぐ近くなのに山賊の根城があるなど、村の付近の安全は全く確保されていない。ここに来るまでに衛兵と一人もすれ違わなかったのもその証拠だ。
村についてハドバルにまず案内されたのは、鍛冶屋のアルヴォアという男の家だった。

汚れた顔は働く男の証
訝しげな視線で私を見てくる。それもそうだろう、両手剣を背負い、鎧を来た少女など普通ではない。ハドバルが説明してくれたおかげで私はドラゴンの襲撃から逃れたハドバルの友人ということになり、アルヴォアの家で泊まれることになった。アルヴォアはハドバルのおじさんで、この街唯一の鍛冶屋であり、ハドバルの居候先らしい。

「ところでハドバル。質問なんだけど、あなたの家は?」
「ない。色々赴任地に飛ばされることが多いんでな、一つどころの家はない」
「じゃあ資産は?」
「帝国の銀行に預けているから今は手元にない」
「は?」
「つまりお前に渡せるようなものはない」

「騙しやがったなァーーーッ!?」

「勝手に人のものを難癖つけて奪おうとしていたのはお前だろう。残念だったな」

してやったりといった満足顔で私を見やるハドバルに、ふつふつと怒りがこみ上げる。


「元は死刑になるはずだったお前を助け、ここまで連れてきてやったんだ。あれぐらいの役得があったっていいだろう」

「それは公務として当然のことじゃない! というか役得は全然関係ない! 帝国兵ってのはみんなあんたみたいにクソったれなの!?」
「なんだと!? お前はもっと常識のある奴だと思っていたぞ!」
「常識がお前の口から出てくるとは思わなかったよ!」

「いい加減にするんだ!」

スカイリムの冷気が吹き飛ばされるような突然の横槍に、私もハドバルも思わず体が跳ねた。恐る恐るそちらを見ると、先ほどのアルヴォアという鍛冶屋が腕組みをして私達を睨んでいる。

「お嬢ちゃん。戦場で約束したことってのは、感情が昂っていて普通じゃ考えられないような約束をついついしちまうもんだ。ハドバルとどんな約束をしたかは知らないが、無しにしてやってくれないか」

「でも……」
「その代わりにある程度のことなら俺が何とかしようじゃないか。それでいいだろう?」
「だけど……」
「気がひけるのはわかるさ。だが気にするな。こいつだって内戦中に軍に志願して、色々と苦労しているはずだ。その分、村で暮らしている俺が負担したって、こいつの役にたっているようで悪い気はしない。そもそもハドバルとどんなことを約束したんだい?」
「その、でも」
「言ってくれないと、俺だって納得ができないさ」
「……こいつが私の着替えをねっとりじっとりねぶるように見つめて、あげく謝らずに開き直ったんです。だからこいつの資産の一部を譲り受けるって。生き延びたら考えるって」
「……なるほどなぁ。言わせてすまなかった、お嬢ちゃん。……俺の鍛冶の技と、材料を自由に使っていい。それでどうだい?」
「わかりました……」

アルヴォアの冷静で筋の通った物言い、そして何よりクマのような体躯に気圧されて、私はそれを了承してしまった。この人のいうことは筋が通ってるし、私も感情的になりすぎていたのかもしれない。


「とりあえず、今日はゆっくり休め。疲れているだろうからな。俺の妻に、とびっきりのシチューを作らせよう」

「ありがとう……ございます」
「俺は怒ったわけじゃないさ。そんなに落ち込まずに、ゆっくり休みなさい」
「はい」

肩を落としてアルヴォアの家に入ると、綺麗なシグリッドという女の人が出迎えてくれた。アルヴォアの奥さんのようだ。話は大体聞いていたから、ゆっくりしていけと言ってくれた。


「それにしてもハドバルも災難ね」

「そうですね。よくよく考えると、ドラゴンに襲われるなんて本当に災難です」
「そっちもそうだけど、きっとハドバル、歩けなくなるわよ」
「えっ?」

次の瞬間聞こえてきたのは、ハドバルの絶叫、アルヴォアの怒声、何かが川に放り込まれる音だった。


「あの人、子供を大事にしない大人が大嫌いなのよ。かっこいいでしょ」

「え、ええ……」

「反省するまで帰ってくるな! ペド野郎!」

「ああやっぱり、あなたってかっこいいっ」

鍋をかき混ぜながらうっとりと呟くシグリッドさんを見ながら、その時初めて、私はハドバルに少し悪いことをしたな、と思った。


「そのシチュー美味しい?」

「美味しいれふ」

リバーウッドへ 【4】

ハドバルの故郷に向かう間、私は多くのことを聞いた。主にスカイリムのことをだ。
スカイリムでは現在、内戦が起こっている。ノルド、つまりスカイリムに古来から住んでいる人種であり、スカイリムの住人である。彼らがノルドを統治するべきだと主張し、帝国の属国から抜けだそうとする反乱軍。

そしてエルフに一度は侵略されながらも、それを押し返してなんとか自治を保っている帝国軍だ。帝国軍はスカイリムと同盟を結び直せば再びエルフと戦うことが出来ると考えているのか、この国を自分のいいようにしたいと必死なのだ。


「内戦中だって聞いてたけど、そんな理由があったんだね」

「そうだ。我ら帝国軍は、エルフが様々な国々を侵略しようとしているのを防ぐために存在している。付け加えると、エルフ……つまりアルドメリ自治領は、他の国にも侵略しようとしている。許しがたいことだ!」

歩きながら弁に熱が入るハドバルは、自分の軍を信じきっているようにみえる。だからこそ、帝国軍に入ったのだろうが、それは危うい気がする。確かに私の家はエルフの国に焼かれた。帝国の象徴である白金の塔が戦火で黒く焦げていくのは、今でも夢に見ることがある。だが、だからといって他の国の力を自分のもののように扱っていいわけではない。自分の国の力で跳ね除けられないような国など、滅びてしまうのが当然なのだ。


幸いにも私はエルフの血が入っていると思われ、強姦されることも殺されることもなかった。だがエルフから見ても、私がどんな人種なのかはわからないようだ。この長い耳と、成人男性並みの筋力。母は、私が子供の頃に他の子と違うね、と言った時も何も言わなかった。


そんなことを考えていると、母の最期の言葉が急に頭の中で蘇る。


「お父さんに会ってあげて。許してあげて。スカイリムで、あなたを待ってくれているから」


そんな言葉を残されてどうすればいいのか。


いつも家におらず、何も教えてはくれず、母の死に目にも会えなかった父をどうして許せるというのか。どうしてあんな重い言葉を私に残したのか。母があんなことを言わなければ、こんな雪国で震えることも、首を切られそうになることも、人を殺めることもなかったろうに。


「大立石だ。お前も何か選んでおけ」

「え?」

思いつめた顔をして考え込んでいた私の心情を察して黙っていたハドバルが、突然私に話しかけてくる。よほど重要な事なのだろう。


「これのこと?」

「そうだ」


後ろにある三本のが大立石(大守護石)
「選んだ守護石によって、お前に加護を授けてくれるだろう。好きに選ぶといい」
「なるほど。そうだなぁ」

薄ぼんやりと返しつつも、頭の中はそう簡単に切り替えられはしない。


「お前の歳で難しいことを考えこむのは似合わないぞ。子供は子供らしく、遊んでいろ」


ハドバルの言いたいことはわかる。きっと、沈んだ顔で考えこむのはやめておけと言いたいのだろう。思えば、スカイリムに向かう途中もずっと同じことを考えていた。地面ばかり見ているようで、その実何も見ずに道を辿って足を動かしていた。


「そうだね。そうするよ」

「お前は本当に子供らしくないな」

素直に認めると、ハドバルは呆れたと言わんばかりに私のことを見つめる。


「そんなに私を子供扱いしたいの?」

「もっと楽しむといい。例えばここからの景色だ」

そう言われ、顔を上げて改めて眼前の景色を見やると、確かに素晴らしいものだった。先ほどまでの暗い気持ちが、一瞬だが和らぐような気になる。こんなふうに景色をまじまじと楽しむことなんて、最近になってやっと思い出した。


「ありがとう」

「どうした?」
「久々に景色を眺めたな、と思ってね」
「そうか。ところで話を戻すが、何を選ぶ」
「盗賊にするよ」

すると驚いた顔で私を見てくる。


「なぜだ?」

「父さんを探しに来たの。ここには。父さんはいつも家にいなかったし、友達の話も聞かなかった。その割に妙な知識をひけらかす人だった。だからぶっちゃけると、暗い場所にいると思って。暗い場所でも、近づけば見えるものがあるかもしれないから」
「なるほどな。あまり好ましくはないが、そういう理由があるならいいだろう」

ハドバルは案外頭が硬くはない。その割に、帝国に忠義を感じている。私は帝国人だから嬉しいけれど、本当にそれでいいのかな、とは思う。だが、彼なりに考えて出した答えなのだろう。それを私が否定することは、とても失礼なことだ。


「さっさと先に行こう。ハドバルからもらわなきゃいけないものもあるし」

「お前、本気だったのか」
「もちろん。いただくよ」

そう宣言し、私は遠くに見える村の煙めがけて、小走りで向かった。

2014年3月8日土曜日

斬首台から動き出す 【3】

まじまじとみると優しげな顔をしている

屋内に入った私は、ハドバルに縄を切ってもらってやっと一息つくことが出来た。

「あのドラゴンの襲撃、とても偶然とは思えない。ウルフリックの仕業かもしれない。お前はどう思う」

縄を解いて背伸びをしている私に、ハドバルは神妙な顔をして話しかけてくる。


「なんでそう思うのさ。ウルフリックにそんな力があるわけ?」

「ウルフリックにはシャウトを使う力があるんだ」


シャウト? 

そもそもスカイリムのこともドラゴンの事も全く知らない私には、全てがチンプンカンプンだ。
だがそのシャウトとドラゴンが関係している、ということは理解した。

「そのシャウトがドラゴンとどう関係するの?」

「シャウトはそもそも人間の言葉ではない。魔法といったほうが近いな。元々はドラゴンの言葉で、特別な力を持つ。ウルフリックには特別にそのシャウトを唱える才能が有るらしい。きっとウルフリックがシャウトを使ってどこかに生きていたドラゴンを呼んだんだろう」
「へー」
「とにかくここから逃げるために鎧と剣を取れ」
「は?」

自由を満喫していて、話しながら強張った体を体操でほぐしている私は、突然の戦闘要請に至極驚く。それもそうだ、こっちはまだ貫通もしちゃいない、いたいけな少女なのだから。


「私に戦わせるん? この子供に!?」

「そうだ。俺がお前くらいの年の頃には、帝国兵に稽古をつけてもらっていたものだ」
「お前と私を一緒にするな」
「そもそも内戦中のスカイリムに徒手空拳で歩いて国境越えようとしたくらいなんだ。それなりの心得はあるんだろう?」
「……まぁその通りなんだけど、腹立つなぁ」

せっせと帝国の鎧と剣を手に取る。



ハドバルをガン睨みするエルゥ
「じろじろ見ないで欲しいんですけど」
「いいものはいいなぁ」
「後であんたの資産の一部を貰い受けるからね」
「生きて出られたら考えておこう」
人の着替えシーンを見ておいてふてぶてしい。


ハドバルVS反乱軍。なお、エルゥは見ているだけの模様

しばらく進むと、逃げ込んだ反乱軍の兵士と真っ向から相対することとなった。

話し合いで何とかしてみると意気込んだ良識派のハドバルだが、いきなり剣を抜かれてはどうしようもなく、結局のところ斬り合いに発展した。
途中何度かハドバルに

「戦え小娘!」

とか言われたが全て無視して悲劇の少女よろしく座り込んでいた。


冷たい視線を食らう
「何その目。子供を守るのが帝国兵のお仕事だと存じ上げておりますゆえ、公務の邪魔をしてはいけないと身を引いた所存ですが」
「戦槌背負ってるお前のような子供がいるか。次に味方をしなかったら置いていくからな」
冷たい視線と言葉を投げかけてハドバルは先を歩いて行ってしまう。
それから砦が崩れたり


なんちゅー脆い砦じゃ
ハドバルの獲物を横取りしたり
拷問室で一悶着あったりした
「長い剣のほうが使いやすいね。リーチがあるってそれだけでアドバンテージだよやっぱり」

拷問室で手に入れたクレイモアを構えながら、感慨深く呟く。


「よくもそんな重い武器が使えるな。お前、本当にただの子供か? デイドラじゃないのか? 見たところ、戦なれもしているようだし」

「タムリエルからここまで歩いてくるのに、武器の扱いも出来ないで来れるわけないじゃない。両手持ちの剣の扱いの仕方は、父に教えてもらった唯一の戦闘法なのよ」
「ならなぜ最初は戦わなかった」
「男の人が戦ってるのって、やっぱりかっこいいかなって」
「そうだろう。だが俺も戦う異性が好きでな。次からはもっとよく見せてもらおうか」

おだてて戦闘を楽にしようという目論見は儚くも崩れてしまった。


「それより、いつも砦の中でこういうことをしてるの? ドラゴンが攻めてきてるんだし、切り上げて逃げることに専念するのがいいと思うんだけども」



脳髄まで耄碌した拷問バカ
「反乱軍から情報を引き出すのも帝国の立派な公務の一つだ。それにドラゴンだなんて、バカを言うんじゃない。まぁお伽話を信じるのも仕方ないかの、その歳じゃあな」
「拷問には詳しいようだけど、現状を把握するのは不得意みたいなのねジジィ。そのままここで干からびるといいわよ、あんたが殺した骸と一緒に」
「そうだ爺さん! ドラゴンが攻めてきているのは妄言なんかじゃないぞ。この小娘だけが言っているんじゃない。ハドバルも、さっき押し入ってきた反乱軍も口にしていただろう!」

突然、この爺さんの助手が割り込んできてまくし立てる。この助手、ハゲているが中身まで見た目通りではないらしい。

だがこの爺さん、どうしても信じられないらしく、この場に残ると言い出した。職務に立派なものだ。歳を取るにつれて現状認識能力と対応力が減っていくというのは本で読んだことがあるけれど、どうやら事実らしい。

「もういい。おいハドバル。俺はここから逃げ出すぞ、連れて行ってくれ」

「もちろんだ。一緒に切り抜けよう」

しかしこの助手、次の戦闘が終わった時には

「俺、やっぱり歳だわ。無理」

と言い放つ。


老いを実感したのだろうか。


なんだかんだ言ってあの爺さんが心配な心優しきハゲ
「あの人、結局逃げなかったね」
「仕方ない。上司を置いて自分だけ逃げるのは、格好がつかないと思ったんだろう」

ぽつりとハドバルに話しかけると、ハドバルは彼のことを否定しなかった。


「立派だね。でも死んだらどうにもならないよ」

「……お前にはわかるまい。あいつにとって、あの爺さんが親のようなものなんだろう。それを置いて逃げることが、どれだけ辛いことか」

その瞬間、背負った剣に自然と手が伸びた。怒りに身を任せて、ハドバルを後ろから斬り伏せそうになったのだ。だが、柄を握ったところでなんとかそれを抑える。


「知った風なことを言わないで。タムリエルからここに来るってことが、どういう意味を持っているか、少し考えればわかるでしょ。家が焼かれたことある?」


突然の怒りのこもった言葉に、ハドバルはぎょっとした顔で私を見た。

一度だが、帝国はエルフの国、アルドメリ自治領によって壊滅状態に陥った。それから現帝国王が首都を取り戻したが、多くの地域は焼き払われ、不平等な条約を結ばされ、現在の帝国は実質、アルドメリの傀儡政権なのだ。もちろん、私の家も母もすでにいない。親父は逃げた。
故郷を捨てることがどういうことか、体験しないとわからないバカでもないはずだ。

「悪かった。すまない」

「よかった。謝られなかったら、さっきの反乱軍みたいに斬ってた」
「今度からは気をつけるよ」
「あとでしっかりお返ししてもらうから」
「おい! まだ何かを俺から奪い取ろうって言うのか!?」
「もちろん。人のことを冤罪で処刑しようとした上に着替えをまじまじと見て、さっきの心無い言葉。私はもう家出しそうなほどに傷ついたわ」
「もうしてるだろ」
「だまらっしゃい。家がなくなったら家出とは言わない」
「わかったわかったよ。出来る限りのことはしてやる」
「ありがとう。やっぱりあなたはいい人だわハドバル。じゃ、先に進みましょう」
「本当にガキかこの子供」
「ガキにだっていろいろあんのよ」


ハドバルにほとんど任せた
「おい! なんで戦わなかった! 俺にだけあんな糞野郎共と戦わせやがって!」
「ごめん。本当にごめん。でも蜘蛛だけは無理。エルフと同じくらい大っ嫌い。次から弓くらい打つから」
「子供らしいところもあるんだな」
「子供だから。そんなことより、出口みたいだよ!」


久方ぶりの空
外に出て空を見上げると、ドラゴンが悠々とどこかへ飛んで行くのが見えた。またどこかの町を襲いに行くのだろうか。忌々しい爬虫類め。だが、そのドラゴンに命を救われた一面もあり、一辺倒に憎むことの出来ない自分もいる。ハドバルは見つからないように隠れていたが、私はあのドラゴンが背の高い山々を飛び越えていくのを、じっくりと見つめてしまっていた。
「あーあ。もう前みたいに空を眺めて旅なんて出来ないや」
「いきなりどうしたんだ?」
「だって、いつ空からあいつが降りてくるかと思うとね……」
「確かにな。俺もそうだ。そういえば、お前の名前を聞いてなかったな。処刑者リストにも名前がなかった。今更だが、教えてくれないか」
本当に今更だなぁ、と思いつつも私は親から貰った大切な名前を声に出す。
「エルゥだよ。エルゥ、エンデューロ」
「珍しい名前だな」
「さぁ。どこの国の言葉やら、自分でも皆目見当つかないね」
「まあいいさ。さぁ、さっさと俺の故郷に向かおう。ここから近いんだ。歓迎するぞエルゥ」
「また歩くのか……」
子供の足には辛いよ、と心の中で呟きつつも、私は地面を踏みしめた。
冷たくて、岩だらけの土地。だけど、このどこかに父はいる。
絶対ぶん殴ってやる。
そう思うと、いつの間にか自分の足取りに力がはいるのを私は感じた。