2014年5月13日火曜日

はちみつと毒牙【16】

マラスと別れた私は再びホニングブリューにやってきた。夜になるとスカイリムの看板は光るのだが、これがなかなか大人なムードを醸し出している。




「あ゛ぁ゛?」

と下から睨みつけるとぐっ、と黙ったサビョルンにマラスから頼まれて害虫退治を請け負ったと告げると、憮然とした態度で報酬の話を持ちかけてきた。

「報酬はきっかり完了したら払わせてもらう」

それを聞いて一瞬安心した私だったが、すぐに計画の詳細を思い出す。要するに私がスキーヴァー共を殺し尽くした時には、こいつもこの醸造所から追い出されているのだ。だから前金ももらわないと、私はギルドの報酬しかもらえないことになってしまう。どうせなら一粒で二度美味しい思いをしたい。

「いや、前金でも払ってよ」
「何故だ? 何故そんなことをしないといかんのだ。ああ、そうか。お前のような子供に頼むんだものな。仕事中につまむお菓子でも買いたいのか?」
「あんたがどう思おうと勝手だけど、これは契約だし。信用を目で見える形で表明するためには金が一番だと思うんだけど。前金だけもらってとんずらする気もないし、前金を払って私が仕事をしなかったら衛兵に突き出せばいいだけでしょ?」
「信用だと? 面白いことをいう小娘だ」

そういってにやにやとした顔で私を見下ろしてくるサビョルンに、私はふつふつと怒りがこみ上げてきた。こいつもメイビンと似たり寄ったりのクソド外道に違いない。

「あっそ。だったらスキーヴァーがいるよってホワイトランの市場で叫んであげる」


するとサビョルンは今までの態度が嘘かのように、おどおどと条件を下げてきた。

「あわてて決める必要はないだろう? 先に仕事の話をしようじゃないか」
「マラスから大体は聞いたよ」
「話が早くて助かる。これがその殺鼠剤だ。それと前金もだ」

手渡された瓶と金貨をポーチにしまいこみ、さてじゃあさっさと仕事をするかと思ったが、1つ気になったことがあったので聞いてみることにした。

「ところでマラスについてなんだけど」

そう問いかけると、彼は得意気に鼻息荒くべらべらと喋ってくれた。


「へー。それで?」


「なるほど。さすが経営者。人件費が一番高く付くものね!」
「そうだろう、賢いだろう、ハハハ」

まあ金に困っていた人間を一時的に助けたのは事実だろう。だがそれをカタに人間を買うような真似をする奴は大嫌いだ。戦争の時、売られていく人を何度も見たことがある。こいつはそういう奴隷商人と根本的に変わらない。まだメイビンのほうがマシに思えてくる始末だ。メイビンは金に関してはきっちり払っているし。

しくじったら殺される職場だけど

こいつをはめることに関して私の良心の呵責はなくなった。

「その顔が驚きと苦痛で歪むのを見るのが楽しみだ(ボソッ」
「何か言ったか?」
「いいえ。じゃ、仕事してくるね」

溢れだす笑みを存分に見せつけてカウンターを後にした。その笑みに「ああ可哀想に、数時間後には全て失って絶望にくれることになるのね」なんて意味がこもっているとも知らずに。


保管庫は予想よりもずっと汚かった。床板は割れているし、藁が転がったままになっている。こんな衛生状態でよくもまあ、今までやってこれたものだ。私達が動かなくても廃業になっていたんじゃないだろうか。


スキーヴァー退治の前に寝室を漁ってみる。ベッドの下にこんなものがあった。
アルゴニアンの侍女とか、うーんなんかやだなぁ、と思って中身を読むとパンがパンパンに膨らんで炉にはいらないとか、奥様の炉に入ることになっちゃって嫌だわ、なんて意味のわからないことが書いてあった。
意味がわかんないけど、ベッドの下においてあるくらいなんだからお気に入りの本なんだろう。


机にはメイビンからの脅迫状親書が入っていた。相変わらずこすっからいやり口をしているようだ。サビョルンもこれを衛兵隊のところに持っていけばいいのに。


他にめぼしいものもないので、地下貯蔵庫へと向かった。あからさまに血飛沫が飛び散っている上にトラバサミまで設置してある。これだけわかってるならさっさと塞いでしまえばいいものを。全く無能な経営者だなぁ。


中に入ると数匹のスキーヴァーが私を見つけて、血走った目で走り寄ってきた。刀で軽く切り払うが、その際にこいつらが奇妙にも毒を持っていることに気づいた。そういう種類のスキーヴァーなのだろうか。スキーヴァーはただでさえ病原菌まみれなのに、更に毒まで持っているなんてヤバイことこの上ない。じわじわと体から力が抜けて、食い殺されるんだろうなと想像してしまって背筋がぞっと寒くなった。
まあ疫病退散のポーションも持っているし、大したことにはならないだろうとタカをくくって私は奥に進んだ。貯蔵庫の一部の壁が崩れて、洞窟につながっていたのだ。

ライフルを構えてこうやって進んでいると、まるで冒険家になったみたいだ。そう思うとワクワクして、さっさと化け物退治でもやりたい気分になってくる。

「ふふん、おいでよ化け物共。かもんかもーん」


イヤァァァァァ!! 蜘蛛イヤァァァァァァ!!

奥から溢れるように湧いてくる蜘蛛!

「アパーム! 弾持ってこいアパァァァム!」



「ハァ……ハァ……蜘蛛だけを殺すスイッチがあったら躊躇なく押すのに」



さらに奥へと進んでいくと、またたくさんのスキーヴァー(毒)がいたので炎の精霊を召喚し、盾にしながら進んでいく。噛み付いたスキーヴァーがそのまま焼かれて死ぬので便利なのだ。
と思っていたら奥から突然人の声が聞こえてきた。てっきり迷い込んだかわいそうな従業員かと思ったが違うらしく、魔法で炎の精霊を吹き飛ばしてしまったのだ。
防具はボロ布をまとっているだけで一切なかったので、フリントロックライフルで胸をぶちぬいてやると即死した。こんな小さな筒から出た鉄の玉が、人の胸をずたずたに引き裂いてスープのようにしてしまうとは……。

アッムリ~ン☆
調べたところ、どうやらこいつが毒牙をもったスキーヴァーを繁殖させた張本人のようだ。日記を持っていたので見てみよう。それにしてもみんな偉人も変人も日記をつけるのが好きだな。

軍(笑)
要するに迫害された秀才ってところなんだろうけど、常識をわきまえない上に人の役に立たない研究をしていればこうなるよねー。ただの害悪以外の何者でもないもの。害虫駆除と言われてきたけど、何も間違ってなかった。

アッハイ

ここで寝泊まりしていたのだろう、錬金術セットと藁布団がある。
さて元凶も倒したしさっさと帰ってスイートロール食べよ!

何だてめぇらァ(イノセンスのチンピラ風

樽に毒を放り込んで一旦外にでると、突然重装備の見るからに山賊な奴らに絡まれた。
「手ほどきをしにきた」というなり突然剣を抜かれたので、ひたすら走って距離を取り、ライフルで撃つ。

ハイクを詠め

最後の一人は刀でカイシャクしてやる。
なんなんだこいつら、と思って懐を探るとこんなものが出てきた。

「……誰?」

2014年5月1日木曜日

酒場での打ち合わせ 【15】

少し時間が空いてしまったがホニングブリューに行くとしよう。インスマスやアーカムやコービットの屋敷に出張していたりシナリオを組んでいたので最近色々慌ただしかったのだ。

メイビンに言われたとおりホニングブリュー蜂蜜酒醸造所についた。ホワイトランのすぐそばの街道沿いにあり、独特の爽やかさがある。リフテンのブラックブライア醸造所と違い、アルゴニアンが泳ぐ水で作ったりはしていないようだ。
私は多分大人になってもブラックブライアの蜂蜜酒は飲まないだろうな。なんでかって、あんな街で作られた酒だなんて知っていたら、誰だって飲みたくなくなるものだ。冒涜と野心の蜂蜜酒なんてラベルをつけたら逆に売れそうな気もするけども。


いい雰囲気だ
屋根の傾斜がすさまじいのは雪国特有
外から見る分には綺麗な醸造所だ。裏手に川が通っていて、綺麗な雪解け水も確保できそうだし品質に関しては信頼できそうだ。
と思った私の考えはあっという間に覆される。
中は散らかっていて挙句の果てにスキーヴァー(ネズミ)の死体まで転がっているのだ。清潔、という言葉とは程遠い内部事情のようだ。
挙句にオーナーのサビョルンに話しかけると世間話もそこそこに出て行ってくれと言われてしまった。この惨状を見られるのが気に召さないらしい。


さてどうするかと思って日記帳を開くと、すっかり忘れていたことが書いてあった。先に協力者のいるバナード・メアに行かなければいけなかったようだ。見学ありがとうございましたと言って、さっさとバナード・メアに向かう。

わいわいがやがやとうるさい酒場の中を酒も注文せずに奥へ進んでいくと、お目当ての人物を発見することが出来た。マラス・マッキウスだ。

「どうも。盗賊ギルドの駆け出しのエルゥです」
「あんたが? こんな子供が?」
「ああはいはい。もう慣れっこですよ。いいから仕事の話をしよう」
「……ま、いいか」

面倒くさそうに机に肘をつく私をじろじろと見ながら、彼はなかなか大胆な計画を語った。




「思い切ったことをするもんだね。毒はどうやって調達するの?」
「そこがこの計画の素晴らしいところさ。サビョルン自身が用意した毒を使わせてもらう」
「殺鼠剤か」
「察しがいいな。頭の回転が速いやつは好きだ」
「貰ったその毒を蜂蜜酒の樽に放り込む、と」
「そういうことだ」
「ところで、どうしてこんなことを? メイビンの話じゃ、あんたはホニングブリューの従業員なんでしょ?」
「従業員だと?」

そういうとマラスはワインの入ったグラスを机に叩きつける。その衝動に並々ならぬものを感じ取ったが、彼が激情を言葉にして吐き出すのを待った。

「それは違う。俺は奴隷さ。昔サビョルンに金を借りたんだ。そして俺は期日までに払えなかった。そうしたらあの野郎、俺のことを何年もこき使ってやがるのさ。給料も休みもなくな!」

金を借りて払えなかったら当然だと思ったが、これだけ激昂しているところを見るととっくにその金額分の働きはこなしたのだろう。誰かが奴隷がほしいなら、返せないだけの金を貸すか、命を救うかのどちらかが必要だと言ったけれども、まさにそれをやられたわけだ。

「それは大変だったね。ところで醸造用の大樽へはどうやっていけばいい? そうやすやすと入れるものなわけ?」
「スキーヴァーが作った穴が保管庫と醸造樽まで続いてる。それをたどればいいんだ」
「なるほどね。結構くっさい任務だなぁ」
「ネズミに怖気づいたか」
「違うよ。色々な意味でくっさいなぁって。たかがネズミにそこまで手こずるもんかね。それにこんなことをしてあんたに何のメリットが有るの?」
「メリットってお前、そりゃあるさ。この仕事が済んだら当然サビョルンは衛兵長に捕まる。そしたらあの醸造所を誰が取り仕切ると思う? お前の目の前の男、マラス・マッキウス様さ」
「へー。なるほどね」
「お互いに利益のある最高の仕事だろう?」
「ああそうね」

気のない返事を返しながら、私はメイビンがスカイリムの2大醸造所を手に入れることに危機感を感じた。あのメイビンのことだ、蜂蜜酒の独占権を入手したらどんな方法で利益を出すかわかったもんじゃない。
だけど、今の私はメイビン側なのだ。

「んじゃ、もっかいホニングブリューに行ってくる」
「ああ、頼んだぞ小さなキーパーソン。俺達の成功を祈って乾杯だ」

2014年3月31日月曜日

謀略のデイドラ、メイビン登場 【14】

ため息混じりに秘密の入口のボタンを押す。人の頼み事を聞いて嫌な気分になるのは切ないものだ。何より、寝覚めが悪いし、快眠できない。
重い音をたてて作動する仕掛けなのだが、これでよく周りの住民に気づかれないなと思う。もっとも、気づいていても黙っているしか無い可能性もあるが。

テレレレ↑~(ゼル伝

ブリニョルフにゴールデングロウ農園の件を伝えると、「ハァ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚く。


「メイビンと手を切るにはこれが一番手っ取り早いからじゃないの?」

後ろ手に手を組みながら呑気にそう言うと、ブリニョルフは「まだわかってないようだな」と溜息をついた。全くもって近頃はため息が多い。昨日の一家の件もそうだし、不景気な話ばかりだ、スカイリムも。

「メイビンと手を切るということがどういうことか、お前にもわかってないはずじゃあるまい?」


「哀れアリンゴス、ソブンガルデで安らかに、ってところかな?」
「まあそんなもんだ。ところでアリンゴスの取引先が誰かわかるか?」
「わからないなぁ。その契約書に書いてあることしか」


「この記号がなんだかわかればいいんだがな」
「そうだねー。デルビンにでも聞いてみたら? 最年長でしょ」
「そうするとしよう。ところでお前に新しい仕事が来ている。あのメイビン・ブラックブライア直々のご指名だ。上手くやれよ」
「げっ! なんで私みたいな新人にやらせるの? あんた達暇なんじゃないの?」

周りを見渡すと、他のギルドメンバー達は各々訓練や雑談をしている。私の視線に気づいたサファイアという女性は、こっちにウィンクをして去っていった。どうやら誰もやる気はないらしい。

「最近また仕事が舞い込んできていてな。割とてんてこ舞いなのさ。そうは見えないのは、全員プロで仕事が手早く、やることをきっちりこなして休暇中だからだ」
「ハイハイ。どーせ新人の使いっぱですよ。でも生きて戻れるの私。ゴールデングロウ農園の件に関して大して収穫がなかったから殺されるんじゃないの。まだ死にたくないんだけど……」

笑ってごまかしてるけど怖いわ

「怖いこと言わんといてよ」
「冗談だ小娘。さぁ、さっさとメイビンのところに行くんだ。あの女はすべてが自分の思う通り迅速じゃないと気が済まないタチなんだ」
「りょうかーい」

街の宿屋の二階でメイビンと落ち合うと、私の姿を見てさっそく毒舌を吐かれた。

「そう。それで盗賊ギルドは大切なパトロンの私の仕事に、あなたのような年端も行かない子供を差し向けてきたわけですね?」

下は富士山、上は大噴火

「失望させてしまい申し訳ありません、マダム」
「今まさにそう言おうとしていたところですよ。手間が省けて大変結構です。ブリニョルフはまたしても気骨のない意気地なしを寄越したというわけですね」
「うちのギルドは信用されていないようですね」

ババァは着る服を選べ(切実

「信用など裏切られた時に対応ができない愚か者のすることです」
「それは素晴らしい心がけですね」

笑顔でババアを持ち上げつつ、よくそんなんで事業を広げられたな、と思う。ただの暴君だな、このババアは。巷じゃデイドラの一種だとか言われているのも納得がいく。謀略を司るボエシアの信者か、ボエシア本人だろうこの性格は。

「ところでどこからはじめましょうか」


「なるほど。大まかでいいから説明していただけませんか」

すると彼女は大仰に、いかにも勿体つけて私に見せびらかすようにため息をつくと、ワインを一口飲んで語り始めた。

「あなたのような子供にわかりやすいように話をしてやりましょう。うちの商売敵のホニングブリュー蜂蜜酒醸造所が最近業績をあげています。その妨害を行うという話です」
「わかりやすい説明をどうも。そこの経営者は?」


「ハッ! そのろくでなしに一杯食わされてるんだからあんたも相当な……」

そこまで言ったところで思わず目を逸らす。視線だけで肌が焼かれそうだ。沈黙に耐えかねて、もう少し知的にものを言おうと思い直す。

「つ、つまりあなた様のような手腕の経営者とライバルになるのだから、向こうも相当なやり手のようですね。あなたが自ら動くくらいですから、こっちを潰そうとする勢いで仕掛けてきてるのでしょう?」



「なるほど。事情はよーくわかりました。それではこのへんで失礼します」
「待ちなさい」

すたこらさっさと逃げようとする私に、メイビンは後ろから声をかけてくる。恐る恐る振り向くと、獲物を狩るときのオオカミのような眼光が私を射抜いた。

「な、なんでしょうか」
「確実に、やるのですよ」

微かに口元を歪ませて、だが威圧感を保ったままの瞳。まるでその言葉が呪詛のように感じられて、私は適当に返事をして、ドラゴンに襲われた時のように脱兎のごとく駆けだした。

宿から出てトボトボと歩いていると、熱心に槌を振るう鍛冶屋が目に写った。バリマンドだ。その時の私の気分は最悪だったため、バリマンドに何かしてもしかたのないことだった。そう、仕方のないことなのである。

「バリマンドさんこんにちは」
「あ、ああ」

私の方を向かずに返事をしたバリマンドにむかつきながらも、手元で作っているものに目を奪われる。

「なにそれ」
「いやこれは」

返事を聞く前にそれを奪い取り、手でバトンのようにくるくると回す。木製の板に鉄の筒が付いており、見慣れぬ仕掛けが沢山付いている。

「これってなに?」
「それは最近開発された銃ってもんだ。遠い異国の集団が持っているらしく、設計図が手に入ったから作ってみたんだ」
「どう使うの?」
「この紙に包まれた火薬と弾を先っちょから突っ込んで、火打ち石を起こし、その小さな出っ張りを指で引いてみろ」
「こう?」

次の瞬間、凄まじい爆音と共にバリマンドの足元の石畳が砕け散った。

「馬鹿野郎! 気をつけろ!」
「うっさい! こっちだってびびったよ! これ何!?」

手に持った銃を持ったまま思い切りバリマンドのスネを蹴り飛ばす。

「銃だと言っているだろう! 火薬で鉄を飛ばすものだ」
「弓とは違うわけね。うるさいし」
「そうだ。その代わり威力はすさまじいぞ」

たしかに素晴らしい威力だ。弓じゃ石畳を砕くことなんてドワーフの弓でもない限り難しいし、私に扱えるものじゃない。ただ、これなら反動にさえ気をつけていればなんとかなりそうだ。

「いいじゃんこれ、ちょうだい!」
「1000Gだ」
「案外安い」
「お前みたいな子供に払えるのか?」
「払ったろーじゃん。これでも一端の盗賊さ」

1000G入った袋をバリマンドの顔面に投げつけると、顔をしかめながらそれを数え始める。

「確かに1000Gあるな。いいだろう、持っていけ」
「やったー!」
「それにしてもお前が金を払うとはな」

ライフルを両手に掲げて跳ねまわっていると、しみじみと彼が呟く。

「常連になるって言ったでしょ?」

にやりと彼に笑いかけると、肩を浮かせて微妙そうな顔をしていた。


自宅に戻って飾ってみる。

2014年3月25日火曜日

後悔は、常に切ない 【13】

朝焼けの山々はとても美しく、私の心を洗い流してくれる。この盗賊ギルドに入って汚いことを随分こなしたけれども、まだ私には善意というものがあるみたいだ。といっても、いまさら悪名が晴れることも、罪が消えることもない。根っからの悪党のような人間にならないことを願うばかりだ。

スカイリムの朝焼けは、色々なものを洗い流す
一晩お世話になった製材所の主人に、何かお礼をしようと思って小屋を尋ねた。悪事を働いて罪を被るのが当然ならば、借りを返すのもまた摂理だ。

「ごめんください」
「リーフナーかい?」

小屋に入ると突然叫ばれたので、思わず体がびくつく。しかし叫び声の張本人は私を見ると肩を落としてため息をついた。どうやら見当違いだったようだ。妙齢の女性で、顔にはイライラとした感情が簡単に見て取れる。何かあったのだろうか。

「突然お邪魔して申し訳ないです。昨晩、勝手にこちらの製材所に泊まらせていただきました。何かお礼をしたいと思っているのですが……」

製材所のグロスタさんはなかなかにセクシーなお体を持っているが、顔のシワは隠せない。若い頃はさぞかし美人だったろうな、と今でも面影を想像できるほどである。

「あんた盗賊かい?」

その言葉に、しまったという顔を浮かべてしまう。ギルドの鎧を着たまま一般人に話しかけるのはあまりにも無頓着だった。慌てる私を一瞥すると、グロスタという女性はあなたに頼みたいことがある、と申し出た。

「夫のリーフナーが消えたのよ。お礼をしてくれるというのなら、私の夫を探してもらえない? 見たところ、あなたは盗賊のようだし、蛇の道は蛇というじゃない」

私を盗賊だとわかっていながらも、グロスタさんは落ち着いていた。

「つまり盗賊が絡んでいるんですね」
「ええ。詳しく話を聞いてもらえる?」
「もちろんです」

グロスタさんは私に向き直ると、詳しい経緯を話してくれた。それはもう、烈火の如き勢いで。

「私の夫のリーフナーが消えたのよ。どうせまた他の女の尻でも追っかけているんでしょうけど、もう我慢の限界。私のことなんてなんにも省みやしない。クソッタレよ男なんて。クソにションベンかけて醸造したら出来るのが男なんだわ! もしあんたが連れ戻してくれたら、顎の骨を砕いてやる!」

あまりの剣幕に脂汗が浮かびそうだ。自分に向けられていない怒りでも、目の前で怒声を吐かれると恐ろしいには変わりない。

「て、手がかりはありますか?」
「あるわ。リーフナーは新しい取引先が高値でうちの製材を買い取ってくれるというから、その契約に向かったの。どうせその金であたし達を捨てて、若い女と宿にでも入ってるんでしょうよ!」

体と顔のギャップがやばい
「木材を持って出向かなくちゃいけないっていうのが罠だったのよ。リーフナーだけじゃなくて、在庫も随分消え去ったわ。あたしを騙して、洗いざらい奪ったのよあのクソ野郎は!」
「それは……大変ですね」

話を聞いているうちに心底かわいそうになってくる。この人は何度も浮気をされた上で、それでも信じて一緒に暮らしていたのに全て奪われたのだから当然だ。どこか私と似た境遇のような気もして、他人事のように感じられない。私の父は何もせずに消えただけマシだけど、家も母もなくなってしまったのだから状況的には大差ない。

「その取引はどこでする、と言っていましたか?」
「ブロークンヘルム・ホロウ(洞窟)ですると言っていたわ。手がかりはそれしかないの」
「わかりました。まずはそこに行って手がかりを探してみます」
「お願いね。子供にこんなことを頼むのもどうかと思うけれども」
「心配して下さりありがとうございます。ですが、お礼はお礼です。では行って参ります」

心底侮蔑の混じった台詞
馬で街道を走りぬけ、ブロークンヘルムホロウまで一直線に向かう。

山賊の砦をスルーし
オオカミをぶち殺し
追いかけてくる山賊を撫で斬る
そんなこんなでブロークンヘルムホロウに辿り着いた。
中には山賊が住み着いていて、どうみても正常な取引先の相手ではなさそうだ。
もしかすると、リーフナーは山賊に騙されていたのではないだろうか。
というかそれが確実そうだ。そもそも洞窟で取引をすると言われた時点で不審に思わなかったのだろうか。もしも怪しい取引相手だとわかっていて取引を敢行したのだとすれば、愚かすぎる。それが例え妻と娘のためであったとしても、死んでしまったらなんにもならないのだ。なんにも。
命さえあれば、いくらでもやり方はあるだろうに。

話が通じる人間はいなさそうだ
露わな人骨で露骨。納得してしまった

山賊を斬り殺して刀の切れ味を確かめていると、宝箱のそばに露骨な人骨が転がっていた。これは今までの犠牲者達だろう。それにしても、リーフナーが生きている可能性は絶望的になってきた。後のことを考えて気が重くなる。グロスタさんはまさかリーフナーが死んでいるとは思っていないから、ショックを受けるだろう。あの怒りようじゃせいせいした、と言い出すかもしれないが。


どこを探しても手がかりが見つからないので諦めかけていたが、怪しい仕掛けを見つけた。もしやと思ったが、それはこの隠し扉が動いた瞬間、確信に変わった。隙間から漂ってきた死臭と腐臭が、如実にそれを物語っていたからだ。

ここで「取引」をしたのだろう

案の定だった
中には数人分のバラバラ死体に混じっておそらくだがリーフナーの死体もあった。取引と称してここに連れ込まれ、あっという間に殺されたのだろう。遺書も手紙もなく、あったのは結婚指輪だけだった。この死体がリーフナーであるかどうかは、グロスタさんに見せれば明らかになるだろう。

それにしても胸糞が悪い。私は盗賊になって随分人を殺したり、物を盗んだが、善良な市民の命を取るようなことはなかった。鼻で笑いながら知ったように「やっていることも罪の重さも同じだ」という奴もいるだろう。だがそれは詭弁だ。私は一線を超えるようなことはしていない。人を騙し、全てを奪い去った上で殺すようなことはしていない。それが私に残った最後のプライドだ。行為はそれを行った理由によって区別されるべきだ。

「ちくしょう……」

握った剣が振り下ろされる相手はすでにいない。私が殺してしまったから。
先にこの死体を見つけていたら、もっと気持ちよく殺意を乗せて剣を振れただろうに。

製材所に戻った私は、グロスタさんの愚痴を早速聞かされた。

「あのブタ、今頃どこぞの街にでもいるんだろう? ええ?」
「これ……リーフナーさんのですか」

ポケットから出した指輪を見せると、グロスタさんはひったくるようにそれを奪った。

「リーフナーさんは……」

俯いて、それ以上言葉を続けることが出来なかった。
私の態度と指輪から察したのだろう。みるみるうちに、グロスタさんの目から涙が溢れる。


「ウソ、そんな……。今までずっと彼に裏切られたんだと思ってたのに。馬鹿な話ね」

指輪を見つめ、祈るように手を組んでグロスタさんは嗚咽を漏らした。

「早く助けを送ればよかったのに、ただ座って悪態をついて時間を無駄にしていたなんて。馬鹿なのはあたしだったのよ。みんなあたしが悪いの……」

何も言うことが出来ずに、湖畔で泣き続けるグロスタさんをおいて私はその場から去った。
グロスタさんは、これからずっと自分を責め続けるだろう。あの人が悪いんじゃないことは、誰の目にも明白だ。だけど、気持ちはそんなに論理的なものじゃない。
ため息をつく。
私が指輪を見つけなければ、あの人が苦しむことはなかったんじゃないか。
私は、ただあの人に絶望を届けただけだ。
答えのない自問は、リフテンに着くまでずっと私の胸を締め付け続けた。