2014年12月3日水曜日

マルカルスではご用心【20】

石の都マルカルスで初めて目にしたのは、ナイフを手にした男が女に近寄っていく瞬間だった。
思わずライフルを構え、本当にそいつが殺そうとしているのかを見極めた後、引き金に指をかける。

怪しいってレベルじゃねえ、殺気がありすぎる

息を止め、とっさに引き金を引く。街中で発砲することの危険など、考えている暇はなかった。私は確かに盗賊で、クズのような生活をしている。だからといって普通に暮らしている人々を恨んだりはしてないし、ましてや殺そうなどと思うはずもない。(もちろん、依頼があれば話は別ッ!)
だから一人の人生を考えなしに奪おうとするこの男を殺すことに、なんの躊躇いも湧かない。


ドン!



「……まあいいか」
私が止めたはずなのに、声高らかに自らの手柄だと叫ぶ市警隊に呆れる。どうやらここの衛兵は他の都市の衛兵とは根本的に違うようだ。そういえば、入るときに衛兵に忠告された気がする。
「何が起きても騒ぐな」
的なことを。
なんだか大変なことになったなぁ、と思いながらも立ち去ろうとすると、近くにいた男に話しかけられた。

衛兵に後ろから見られてるから話しかけないで頼む

「は?ノート? いや知らないけど」
と言いつつもノートを見ると、そこにはタロスの聖堂で待つ、と書いてある。
「……あんた、なんか知ってるんじゃないの?」
すると彼はちらりと衛兵を見て私に目配せをする。わかるだろ? と言わんばかりだ。どうやら私には面倒事を引き寄せる体質があるらしい。
「俺はただ酒を飲み過ぎて外の空気を吸いに来ただけさ。それじゃあな」
そう言うなり彼はさっさと酒場へのドアを開いて行ってしまった。
「あほらし。これ以上人の不幸に関わってられるかっての」
ノートを適当にポーチに詰めて、私はその場を後にした。
そんなことより、私にはここに来た目的があるのだ。
カルセルモ、とかいう人に会いに行くのだ。前にダンジョンでドワーフ製の弓を拾った後、どこから聞いたのかそれを買い取りたいと手紙をもらったからだ。
人の不幸より目先の1Gの方が大事なのは言うまでもない。



要塞に入るなり何やら言い争っている。だからさっきも言ったとおり目先の鐘のほうが今の私には大事なんだっての。
要塞の奥、荘厳な遺跡の真ん前でカルセルモを見つけることが出来た。
「あ、もしもしカルセルモさんですか。手紙の受け取り主です」
するとカルセルモは憤然とした口調でこう言いやがった。


重要人物カルセルモ

「あ? あんたがわざわざ郵便屋まで使って手紙を送りつけてきたんでしょーが。なにその態度。このドワーフの弓あげないよ?」
「本当か? ぜひ見せてくれ」
「学者ってのはみんなこんなに自分の欲望に忠実なの?」
呆れながらもそれを取り出すと、 彼は目を輝かせながらそれを受け取る。それから私にずっしりと重みのある麻袋を握らせてきた。
「これが報酬だ。いやあ、わざわざすまないね」
「さっきとずいぶん態度が違うじゃん。最初からそうしてりゃよかったんだ」

ハイエルフの年寄りって何歳くらいなんだろう。300?

 「無礼を詫びるよ。少々取り込んでいて気がささくれだっていたんだ。」
「なに、また面倒事?」
「また、とは?」
街に入った時の事を話しそうになるが、あのノート、衛兵の態度を思い出してぐっと言葉を飲み込む。学者というのはよくわからない人種だし、衛兵とも距離が近いはずだ。うっかり喋られてマークされるようなことになったらかなわない。
「なんでもないよ。ところでそれって金になる話? 例の面倒事って」
宮廷お抱えの学者だけあって金はあるはずだ。そう踏んで私はずずいっと聞いてみた。
「私が発掘しているヌチュアンドゼルという遺跡で問題があってな。ニムヒという化け物のせいで発掘が出来ないのだ」
化け物退治で金がもらえるならこれほど楽なことはない。それに、遺跡までも近い。なにしろ目の前の遺跡がそうなのだから。楽な仕事になりそうだ。
「それ解決したらお金くれる?」
「もちろんだ」
「OK引き受けた。私にはこいつもあるしね」
ライフルをぱしんと叩いて意気揚々と遺跡に向かった。


「おーっ! 凄い! 綺麗!」

ドワーフの遺跡は荘厳だ

声を出して叫んでしまうほどに見事な遺跡だ。未だに光り続けている灯りや、輝きを失っていない細工などから相当な技術力があったのだろう。
だけどもそんな観光気分はすぐに終わった。


「畜生騙されたァーッ!」
奥まで進んだ私を出迎えたのは蜘蛛の群れだった。
この世で一番嫌いな生き物の住処にどうして足を踏み入れてしまったんだろう。半泣きになりながらもライフルを撃ちながら、私は進んでいく。途中落ちていた医薬品やなんかは全部私のものだ。元は発掘隊のものだろうけどそんなのは関係ない私のもんだ。

蜘蛛だけは勘弁して下さい


スカイリムでは一般的な光景

「ここが最奥部かなぁ。終わりだよねえ? ね、ね、終わりだって言って」


ぱっと見でわかる

そうは問屋が下ろしません!
とばかりに馬鹿でかい蜘蛛の巣が見える。そこから降りてきたのは信じられないほどにでかい蜘蛛だった。それはもう、クマよりも大きい蜘蛛だった。もしも私が帝都にいた時のように気弱な美少女だったら今頃卒倒していただろう。
だがっ! 今の私にはッ! このライフルと野太刀があるッ!
「セリャァーッ! 私が餌だと思ったかこの野郎馬鹿野郎! 私はお前を殺しに来たハンターだーッ! 頼むからさっさと死んでくれいッ!!」
ライフルを一発ドタマにぶち込み、すぐに野太刀に持ち替え炎の精霊を召喚。
奴が気を取られている間に一気に斬りかかる!


ニムヒ「ここから立ちされ! OK?」

だがあっという間に炎の精霊がやられ、ニムヒがこちらを向く。
しかし遅い。こっちにはチャカ(ライフル)があるんじゃボケーッ! 食らいやがれタコ野郎!


「OK!」ズドン!

「はぁっ……はぁっ……終わった!」
きっと私がおっさんだったら、この辺でどっかりと座り込んでタバコでも吸うんだろうなぁ、と思いながらうさぎのローストにかぶりつきながら一服する。
すると実は死んでいなかった炎の精霊が戻ってきた。
「は!? あんたやられたんじゃなかったの!?」
「いや、ちょっと攻撃を回避しようとして横穴に逃げ込んだら、やっこさん姉さんを狙っただけですがな」
「……私の決死の覚悟は? あの一発で倒せなかったら死ぬかもって覚悟して撃ったのに!?」
「ま、結果オーライちゅーことでええんでないですか」
「しねエセ関西弁!」
「ちゃいますねん! これ精霊の標準語なんですのん!」
「嘘つけ!」
「嘘ちゃいますねん! 小野坂っていう人が広めた言語で……、あ、姉さん。そこに人が死んでるで」
「え、また? あ、帝国兵の鎧着てる。いただき」
「ほんまハイエナのようなお方ですわ。おおこわ」
「うるさい。スキル上げのために切るよ?」

Oh~♡

「なんか手紙持ってる」
「お、どんなんですか?」
「こんなん」



「……あ、わてわかりましたわ。これ、仲間割れ起こって死んだパターンって奴でっしゃろ」
「……これ、真相調べたら金もらえると思う?」
「そりゃ、もらえるでしょうなぁ」
「よし、観光ついでにやっちゃお」
「軽っ!」

2014年6月19日木曜日

馬に揺られて 【19】

ヒヒィン

永遠に続くものはない、あらゆるものに終わりは来る。それは自然の摂理というやつだ。突然だが今日は旅行だ。マルカルスへ行く。(よせあつめブルース風
理由は前回もらった手紙だ。マルカルスへ行けばドワーフの弓を高く買い取ってくれるそうなので、旅行がてら旅をしようと思ったのだ。ヤクザめいた抗争にもちょっと嫌気がさしてきたので。

残念ながら防火のポーションはなかった

ホワイトランを出発してすぐに、焼け落ちた家を見つけた。ドラゴンに焼かれたのか、昔火事で朽ち落ちたのかは定かではないが、ここに住んでいた人たちはどうなったのだろうか。もしかしたら、私が今までにすれ違った人々の中にいるのかもしれない。
めぼしいものを探したが何もなかったので外にでると、突然金属を叩きつけ魔法を放つ重々しい音が耳に飛び込んできた。窺ってみると、何やら吸血鬼の一団と何かの宗教団体が戦っているようだ。

闘技場での戦いを見守る観客の気分。吸血鬼に100G賭けるわ!

奥のほうが吸血鬼なのだろう。幸いなことに宗教臭い奴らは吸血鬼を殺し、無事に生き延びたようだ。両方とも死んで荷物を預かってやろうと思ったのだが、上手くいかないものだ。

ぶっちゃけ吸血鬼っぽいのはあんただと思った

「そこの少女! 吸血鬼に噛まれてない?」
「私が? いや噛まれていないけど」
「そうか。一応疫病治癒のポーションをあげるわ」

遠くから見ていた私に彼らは話しかけてきた。思惑がバレていないことを思いつつ、近寄るとポーションをくれたのだ。それも疫病の治癒だ。なかなか高度なポーションで、この人物たちがそれなりの技量と高潔な精神を持っているのはすぐにわかった。

「あなた達は?」
「我々はステンダールの番人だ。人を殺し、たぶらかすデイドラを狩ることを使命としている」

ステンダール
人間の罪をかばう慈悲深い神とされるが、その威光を汚す者には呪いを下すこともある。

「ステンダールって神様の? なるほどねえ」
「もしデイドラを見つけたら教えてちょうだい。
「了解」

夜はいい。静かで、綺麗で

デイドラを狩る、か。馬の背に揺られながら彼らを思い出す。自ら人の為に化け物退治をするとは、よくわからない人達だ。もちろん、それが彼らの信奉している神が望んだことだからだろうけども、それでもあまり理解は出来ない。私には特に信奉している神なんていないからだ。強いて言うならノクターナルだけど、どちらかというと信仰というより「好き」という感情に近い。ノクターナルは伝承を聞く限りでは恐ろしくも面白い邪神で、泥棒の神様のくせにしょっちゅう物を盗られる、という抜けたところが好きなのだ。

ノクターナル
夜と闇の女神。「夜の女王」としても知られ、盗賊ギルドなどシロディール中の盗賊に信仰されている。
両手に鳥を持った女性の姿をしている。


このMODは本当に綺麗

魔法で光る道標がマルカルスまではまだ遠いことを教えてくれる。マルカルスはスカイリムの最西端だからだ。ここがどのへんにしろ、同じ方向に集落があるということは、まだまだ先なのだ。

短刀にしか目が行かない

途中に祭壇を見つけた。何やら良さげな短刀が備えられているので、きちんとお祈りしてから借りることにする。これはどうやらディベラの祭壇らしいが、何故こんなところにあるのだろうか。ただの街道の脇だというのに。

ディベラ
美と芸術の女神とされ、美しい女性の姿で描かれている。
美しさを司る女神である事から男女共に大きな支持を集めており、シロディールには多くのカルト集団が存在する。


この辺りは切り立った山が多く、非常に険しい地形をしている。景色はいいが、どことなく淋しげな風情があり、そこがまた魅力的だ。もし家を持つなら、この辺に家を持つのもいいかもしれない。あの洞窟の隠れ家非常にわくわくするのだが、出入りするのにいちいち川から入らなければいけないので面倒なのだ。
そんなことを考えながら歩いていると、何やら仰々しい集団が前から歩いてきた。どうやら結婚式へと向かうらしく、なかなか高級そうな服を着こなして歩いている。
だが中身はそうでもないらしく、一歩歩く度に愚痴を言っているのではないかと思うほどに口が悪い。

そりゃ呼ばれたからだろ。記憶力ないの?

高価な贈り物、ねえ。言いふらすとか割りと馬鹿なのね

「ねえねえどこいくの?」

私が声をかけると、露骨に舌打ちをして、いかにも嫌々と言った風に事情を説明してくれた。

「邪魔するな。高価な贈り物を揃えて遠路はるばるやってきたんだ。ヴィットリアの婚礼に遅れるわけにはいかない」
「そうだったんだ。邪魔してごめんなさいね」

関わるだけ無駄だな、と思い立ち去ろうとしたその時、後ろから付いてきていた女と目があった。

( ˙-˙ )

「あっちへ行きなさい。スカイリムのクズ」

思わず剣を抜きそうになるが、ぐっとこらえて我慢することにする。いくらここが

「衛兵の目につかず」
「簡単に殺せる獲物だったとして」
「一度も刀を振っていないから飽き始めていたとしても」

私はとても優しいから我慢してやる。だが次に会った時は覚えておけよ女郎。

とブチギレ寸前で歩いていると、何やら見慣れない鎧を纏ったカジートが話しかけてきた。私の名前を確認すると突然剣を抜いてきた。

「あんたは暗殺ギルドに手配されてるのよ。ここであなたの旅路も終わ」
「丁度いいィイイイイイイイイッ! この野太刀の錆にしてくれるわ獣人種がッ!」

炎の精霊からの無言のツッコミを感じる

「ああすっきりした」

それからしばらく歩くと、急に前が開けた。

けぶる景色もなかなか

この川の根本にマルカルスがあるはずだ。

2014年5月26日月曜日

情報整理 【18】


リフテンに帰り着いてすぐに配達人から手紙を受け取った。


ついこの間ラグドフラゴンの中で放り出されていたドワーフの弓を手に入れたのだが、それに関しての手紙のようだ。どうやらこれを売って欲しいらしい。
そのうち観光がてら行ってみようかな。
早速仕事の結果をメイビンオブ・ザ・デイドラに報告しに行く。


「朗報を持ってきたと思っていいのでしょうね」
「サビョルンの排除は済みましたが、正直なところ得られた情報はごく僅かです。こちらの書類を御覧ください」

そういってこの前手に入れた契約書を見せると、メイビンは皺の多い顔に更に皺を増やしてその書類を睨みつける。彼女の中では静かな怒りが煮えているのであろう。


「……私に喧嘩を売ったことを公開させてあげましょうか」
「御意」
「では自分のギルドに戻りなさい。さっさと調査を進めるのですよ」

ギルドに戻った私はブリニョルフに仕事の報告を行う。
「かわいそうに、サビョルンはこれで自分の醸造所を失ったわけだ」
「そしてメイビンには幸運なことに、商売敵がいなくなった」


「その通りだ!」
「それにしてもこのマーク、どうやら狙いはメイビンもそうだけれど、うちらにも攻撃を仕掛けてきているように思えるのだけれど」


「そうだな。最初はアリンゴス、今度はサビョルン。これは偶然じゃない」
「私達に喧嘩を売るなんて結構度胸のある奴だね」
「ああ、並大抵のやつじゃない。外堀をなくして俺達を孤立させようって気なんだろう。かなり周到に練られた計画だ。……ああそうだ、メルセルがお前のことを呼んでいたぞ。かなりプッツンしてたから、さっさと言った方がいい」
「ゲー。私あいつ苦手なんだよね。底意地悪そうっていうか」
「そういうな。あいつがいるからこのギルドは保ってるんだ」

陰鬱な気分でメルセルの元へ向かうと、ギルドマスターの机に手をついてため息をもらす彼の姿があった。そのため息に混じって、怒りすらも吐き出されているのだろう、辺りにはピリピリとした空気が広がっている。


「ただいまメルセル」
「やっと来たか下っ端。早速だが話がある。俺達はこの謎のマークの持ち主を始末しにかかる。やる気はあるか?」
「もちろん。殺せばいいんでしょ」

事も無げに自分の口から殺すなどという言葉が出てきたことに、私は自分でも少々驚いていた。その時の自分は冷徹で、野太刀を振るうことに何の躊躇いも感じていなかったのだ。朱に染まれば赤くなるというが、私も随分悪党に染まってきたようだ。


「敵を甘く見るなよ小娘、奴らは侮れん」
「わかってるよ。それで、次はどうすればいいの?」
「向こうは一つ大きな失敗を犯している」


「っていうと?」
「お前が持ってきた羊皮紙にガジュル・レイと書かれていた。こいつはうちの密偵が以前使っていた偽名だ」
「なるほどね、飼い犬に手を噛まれたわけね」
「正確には飼いトカゲだがな」
「アルゴニアンが密偵だったの?」
「アルゴニアンは勤勉で大人しく、闇に潜むのが上手い。理想的な密偵だ。といっても、こいつは少々癖のある奴だったがな」
「それで、そいつをどうするわけ?」


「現地でヤツを探して尋問しろ。何かわかったら教えてくれ」
「りょーかい」

出発する前に情報を整理しておこう。
まずメイビンの醸造所の原料販売元が突然メイビンと手を切った。
それと同時にメイビンの商売敵にその原料が売られていた。
その商売敵を何とかして消し去ったが、相変わらずこの動きを仕組んだ人間が誰だかはわからない、と。
そしてこれらの取引の仲介をしたガジュル・レイを尋問するのがこれからの動き。

盗賊というよりも、マフィアの抗争めいた雰囲気をかもし出してきたなぁ。

乾杯 【17】

無事に雇いの悪漢、要するに復讐屋共を返り討ちにしてサビョルンの元へと戻る。

「仕事終わりましたよー」

しかしサビョルンは私をジト目で見ると、こう言った。

「何をそこで突っ立ってる? さっさと毒を巣に仕込んでこい」

思わずぽかんと口を開ける。今しがた全部始末し終えたところなのに。余計なのも全て一緒くたに。

「いやだから元凶の基地外も殺し終わったんですけど」
「何をそこで(ry」

お前も一緒に殺してやろうかと喉まで出かかるが、重要な事を思い出す。そういえば巣に毒を振りかけていなかったのだ。おまけに醸造樽に毒を入れることすらも忘れていた。

「ああああもう!!」

わかりにくい!
毛も逆立つような洞窟に再び潜り込み、腐った精神とフレッシュな死体の間をくぐり抜けて毒をばらまく。このままみんな死んじゃえばいいんだなんて気分にすらなってしまう。こんな小柄な少女をこんなやばいところに送り込むなんてどうかしてる! 自分でやるっていったけどさ!


「ただいま!! 終わったよ!! クソッタレ!」
「待ちかねたよ。終えるまで隊長を待たなくちゃならなかった」

今にも野太刀を抜きそうな勢いで飛び込んできた私に、皮肉を浴びせかけるサビョルン。コイツ自体が毒の塊みたいなもんだよ。

引き伸ばすから髪も抜けるんだよ(無根拠

「終わったんだからさっさと給金ちょうだい!」
「隊長が去るまで待ってくれ。待てないこともないだろう?」
「そんな都合よくすぐに現れるわけな……」


「何このスピードこわ……」

突然現れた衛兵隊長はもう待ちきれないと言わんばかりに試飲用の樽へと近づく。サビョルンの歯の浮くようなセールストークと

あたりめーのことしたり顔で語ってんじゃねえハゲ

衛兵隊長の気取ったアホのような語りを耳にしながら、私はことが起きるのを待った。というよりも衛兵隊長の出現があまりにもタイミングが良すぎて呆然としていたというのが正しいだろう。
だが次に出てきた言葉に現実に戻される。なにせ、衛兵長は突然声を荒げたかと思うとサビョルンをしょっぴくと言い出したのだ。当初の計画通りに事が進み、思わずにやけそうになる。

ずっと繋いだまま(意味深

「ダメだ、直視すると笑っちゃう……」

と呟きいつの間にかいたマラスを見ると、私よりも凄まじい怨嗟のこもった笑みをサビョルンに向けていた。私と目が合うと、彼は小さくガッツポーズを取る。同じポーズで返すと、彼は喉を鳴らすようにグググと笑った。

「こんな毒の入ったものを飲ませやがって! サビョルン! お前は独房入りだ!」
「そんなはずは! 待ってくれ、話を聞いてくれ!」
「黙れ! 今すぐ付いて来い!」

怒髪天(髪もないけど

剣を抜いてサビョルンを連れて行く衛兵長は、去り際にこの醸造所の管理をマラスに一任して出て行った。

まだ笑うな……こらえるんだ……

新機動戦記ハゲW(ダブル

二人が出て行った後で数十秒経ってから、マラスと私はお互いの顔を見合った。マラスの顔も私の顔も、こらえきれない笑いを必至に押さえる非常に奇妙なものだった。

「ダーッハッハッハッハ!!」
「ちょっとプフ、マラス笑いすぎアッハッハッハッハッハ!」
「あのハゲのブチ切れるところ見たかよエルゥ! グハハハハ!」
「どっちもハゲだからわかんないわよ! プッハッハッハ!」

それから数分間私達は笑い転げ、落ち着いたあとも何度も思い出し笑いをする。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
二人で一杯だけ酒を飲み交わして(勿論、無害な方を)落ち着いてから、本題を切り出す。
「あー笑った。あーそうだったそうだった、マラスさーサビョルンの書類を見せてくれない? ヒック」
酒のせいか、いつもよりも遠慮のない話し方になってしまっていたが、この笑いの渦と酒の酩酊感の中ではそんなことはどうでもよかった。酒を飲んで嫌なことを忘れるなんてどうかと思ったけれども、たまにはこういうこともいいのかもしれない。

「おいおい、子供が駆けつけに一杯なんてするもんじゃないぞ。まあ今日の俺はご機嫌だからそんなことどうでもいいけどな。サビョルンの書類が見たいってことは、あいつの秘密のパートナーをメイビンに報告しなけりゃいけないんだろう?」


「そうそうー。それ探して来いって言われてるのあの鬼ババァに」
「鬼なんて口にするもんじゃないぞエルゥ。死にたくなければな」

急に真面目な顔でマラスが言う。もしや告げ口でもするつもりなのだろうか。そう思って身構えると、次に彼はこう言った。

「鬼どころじゃない、デイドラだからな! ギャッハッハッハッハ!」
「アハハハハハハハハ!」

祝杯だー、と次々と蜂蜜酒のボトルを開けていくマラスを尻目に、サビョルンの書斎へ向かう。机の鍵を先ほどもらったので、さっさと調べなくてはいけないのだ。酔ってしまってからでは探せないだろうから。


「えーと……ヒック」


「何このマーク。黒歴史ノートみたいーアハハハ」

なんだか重要そうな書類を見つけて、それをポーチへと仕舞いこむ。

「あーそうだ、蜂蜜酒って結構美味しいから持って帰ろうーっと」

樽の中に入っている蜂蜜酒を数本仕舞い込み、私は一晩中マラスとどんちゃん騒ぎをして眠った。酒もなかなかいいものだ。何より、祝い事に飲む酒は美味しい。今までは嫌っていたけれど、飲んでみることにしよう。