2014年5月26日月曜日

乾杯 【17】

無事に雇いの悪漢、要するに復讐屋共を返り討ちにしてサビョルンの元へと戻る。

「仕事終わりましたよー」

しかしサビョルンは私をジト目で見ると、こう言った。

「何をそこで突っ立ってる? さっさと毒を巣に仕込んでこい」

思わずぽかんと口を開ける。今しがた全部始末し終えたところなのに。余計なのも全て一緒くたに。

「いやだから元凶の基地外も殺し終わったんですけど」
「何をそこで(ry」

お前も一緒に殺してやろうかと喉まで出かかるが、重要な事を思い出す。そういえば巣に毒を振りかけていなかったのだ。おまけに醸造樽に毒を入れることすらも忘れていた。

「ああああもう!!」

わかりにくい!
毛も逆立つような洞窟に再び潜り込み、腐った精神とフレッシュな死体の間をくぐり抜けて毒をばらまく。このままみんな死んじゃえばいいんだなんて気分にすらなってしまう。こんな小柄な少女をこんなやばいところに送り込むなんてどうかしてる! 自分でやるっていったけどさ!


「ただいま!! 終わったよ!! クソッタレ!」
「待ちかねたよ。終えるまで隊長を待たなくちゃならなかった」

今にも野太刀を抜きそうな勢いで飛び込んできた私に、皮肉を浴びせかけるサビョルン。コイツ自体が毒の塊みたいなもんだよ。

引き伸ばすから髪も抜けるんだよ(無根拠

「終わったんだからさっさと給金ちょうだい!」
「隊長が去るまで待ってくれ。待てないこともないだろう?」
「そんな都合よくすぐに現れるわけな……」


「何このスピードこわ……」

突然現れた衛兵隊長はもう待ちきれないと言わんばかりに試飲用の樽へと近づく。サビョルンの歯の浮くようなセールストークと

あたりめーのことしたり顔で語ってんじゃねえハゲ

衛兵隊長の気取ったアホのような語りを耳にしながら、私はことが起きるのを待った。というよりも衛兵隊長の出現があまりにもタイミングが良すぎて呆然としていたというのが正しいだろう。
だが次に出てきた言葉に現実に戻される。なにせ、衛兵長は突然声を荒げたかと思うとサビョルンをしょっぴくと言い出したのだ。当初の計画通りに事が進み、思わずにやけそうになる。

ずっと繋いだまま(意味深

「ダメだ、直視すると笑っちゃう……」

と呟きいつの間にかいたマラスを見ると、私よりも凄まじい怨嗟のこもった笑みをサビョルンに向けていた。私と目が合うと、彼は小さくガッツポーズを取る。同じポーズで返すと、彼は喉を鳴らすようにグググと笑った。

「こんな毒の入ったものを飲ませやがって! サビョルン! お前は独房入りだ!」
「そんなはずは! 待ってくれ、話を聞いてくれ!」
「黙れ! 今すぐ付いて来い!」

怒髪天(髪もないけど

剣を抜いてサビョルンを連れて行く衛兵長は、去り際にこの醸造所の管理をマラスに一任して出て行った。

まだ笑うな……こらえるんだ……

新機動戦記ハゲW(ダブル

二人が出て行った後で数十秒経ってから、マラスと私はお互いの顔を見合った。マラスの顔も私の顔も、こらえきれない笑いを必至に押さえる非常に奇妙なものだった。

「ダーッハッハッハッハ!!」
「ちょっとプフ、マラス笑いすぎアッハッハッハッハッハ!」
「あのハゲのブチ切れるところ見たかよエルゥ! グハハハハ!」
「どっちもハゲだからわかんないわよ! プッハッハッハ!」

それから数分間私達は笑い転げ、落ち着いたあとも何度も思い出し笑いをする。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
二人で一杯だけ酒を飲み交わして(勿論、無害な方を)落ち着いてから、本題を切り出す。
「あー笑った。あーそうだったそうだった、マラスさーサビョルンの書類を見せてくれない? ヒック」
酒のせいか、いつもよりも遠慮のない話し方になってしまっていたが、この笑いの渦と酒の酩酊感の中ではそんなことはどうでもよかった。酒を飲んで嫌なことを忘れるなんてどうかと思ったけれども、たまにはこういうこともいいのかもしれない。

「おいおい、子供が駆けつけに一杯なんてするもんじゃないぞ。まあ今日の俺はご機嫌だからそんなことどうでもいいけどな。サビョルンの書類が見たいってことは、あいつの秘密のパートナーをメイビンに報告しなけりゃいけないんだろう?」


「そうそうー。それ探して来いって言われてるのあの鬼ババァに」
「鬼なんて口にするもんじゃないぞエルゥ。死にたくなければな」

急に真面目な顔でマラスが言う。もしや告げ口でもするつもりなのだろうか。そう思って身構えると、次に彼はこう言った。

「鬼どころじゃない、デイドラだからな! ギャッハッハッハッハ!」
「アハハハハハハハハ!」

祝杯だー、と次々と蜂蜜酒のボトルを開けていくマラスを尻目に、サビョルンの書斎へ向かう。机の鍵を先ほどもらったので、さっさと調べなくてはいけないのだ。酔ってしまってからでは探せないだろうから。


「えーと……ヒック」


「何このマーク。黒歴史ノートみたいーアハハハ」

なんだか重要そうな書類を見つけて、それをポーチへと仕舞いこむ。

「あーそうだ、蜂蜜酒って結構美味しいから持って帰ろうーっと」

樽の中に入っている蜂蜜酒を数本仕舞い込み、私は一晩中マラスとどんちゃん騒ぎをして眠った。酒もなかなかいいものだ。何より、祝い事に飲む酒は美味しい。今までは嫌っていたけれど、飲んでみることにしよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿