2014年3月17日月曜日

リフテンに愛をとりもどせ 【10】

リフテンで債権回収をする前に、鍛冶屋、灼熱の戦槌で武器を見てみると、面白いものがあった。なんと刀である。それを見て思わず美しいと呟くと、武器を研いでいるバリマンドが振り返った。



これだけ見るとガンつけられてるみたい
「お前に扱うのは無理だ。お前の細腕でそれを振るってみろ、自分の腹でも切るのが落ちさ。ちなみにアカヴィリではハラキリというらしい」
「ムダ知識どうも。それと余計なお世話。クレイモアの扱い方なら慣れてるつもりだよ」
「ガキが何を言うんだか。どちらにしろガキに武器は売らん。このバリマンド様は、非力な奴が使う剣を見るのが大嫌いだからだ」
「じゃあ私が力を証明したら、売ってくれるのかな? あの刀を」
「はっ! いいだろう。街中に知れ渡るくらいになったらまた来るがいいさ」
「その言葉、忘れないでよ」

私は背伸びをすると、近くのプローン質屋に足を踏み入れた。このリフテンでもなかなか商売は成り立っているようで、そこそこ金回りは良さそうだ。慈善事業に力を入れるくらいなんだから、私達に払う金はあるはずだろう。





まず世間話から会話をはずませ、本題に入る。


「ペルシさん、盗賊ギルドへの借金、まだ払ってもらってないそうですけど」


そう切りだすと、乞食を見るような蔑んだ目で私を見つめる。


「なんだ? 盗賊ギルドは君のような子供に使いっ走りを頼んでるのか?」

「そうですよ。盗賊ギルドの使いっ走りです。早く借金を払ってもらえませんかね」
「何も知らないようだから言っておくけどね、あれは借金なんかじゃない。他の盗賊がうちの店に入らないように契約を結んだから払うことになった金だ。要するにみかじめ料のようなもんさ。ところがどうだい、今の君たちにはとても組織を維持できる力もありそうにない。そんな奴らに誰が払うかね。乞食に恵んだほうがよっぽど人のためになる」
「つまり払っていただけないと?」
「そうだ」

手袋をしっかり嵌めてあるのを確認する。この手袋、初めはただの手袋だと思ったのが、実は素手の威力を増大させる珍しいエンチャントが付いているらしい。私のような非力な子供には最適だ。


「払っていただけないと酷いことになりますけど。あなたの頭皮のようなひどいことに」

「これはヘァスタイルだ!」

凄まじい勢いで怒鳴ったベルシは私に殴りかかる。


「きゃー怖い」




YouはShock!
「わかった! 払う! 払うからやめてくれ!」
「盗賊ギルドを舐めると痛い目見るわよ。思い知ったのなら、忘れず、町の人にも知らしめることね。誰のお陰で暮らせているのかよく考えるように」

地に伏して懇願するペルシを見下ろして捨て台詞を吐き店から出ると、自分でも自分の顔がニヤついているのがわかる。力を示すことほど気持ちのいいものはない。今ならエルフがなぜ帝国を攻めたのかもわかるような気がするほどだ。なんでも落ちてゆくのは早いものよ、と昨日泊まった宿のキーラバさんも言っていたけれど、そのとおりだと思う。私は自分がやっていることが悪いことだと知りつつも、その快感に抗えなくなりつつある。


どうせ悪人なんだ、気取ったってしょうがない。それに、これは目的のためなのだ。


さて次の取り立てに向かおう。




愛で空が、落ちてくる
宿屋のキーラバに払えというと、小汚いガキが何様のつもりだい!? と拳を振り上げてきたので交渉の暇なく殴り合いになった。こちらとしても不本意だけど、そっちがその気なら仕方ない。

しかしこの女将、徒手空拳が異様に強かった。フットワークの軽さも持ち合わせつつ、その爪には鋭利な刃物のような切れ味があったのだ。普通の人間ではありえない打撃とも剣撃とも取れる攻撃に、私はたじろいだ。だが弱みを見せては沽券に関わる。今の私はただの孤児ではなく、盗賊ギルドの取り立て屋なのだ。




YouはShock!
顔面への一撃をしゃがんで避け、そのまま体ごと下からえぐり込むように顎に一撃を食らわせる。クレイモアを振り上げるかのような一撃に、キーラバさえも膝をついた。

「わかった、わかったわよ! 払うわよ。払うからこれであんた達との貸し借りはナシだってことにして頂戴!」

「ハァ……ハァ……オーケー……!」

ふらふらする自分の頭を小突きながら回復魔法をかける。


「あのトカゲ……エンチャントされた手袋してる私と互角に殴りあうなんて……」


顔についた傷が治っていくのを感じながら、少々力に溺れすぎていたかと省みる。これでは帝国を滅ぼそうとしたエルフとやっていることが一緒だ。もっとスマートに、圧力をかけて相手から条件を引き出せるように努力しよう。ブってブってぶちのめす暴力ヤクザの時代は終わり、インテリヤクザの時代が始まったとか。


さて次だ。マジカを使い切るほど回復魔法をかけ終わった私は、次の取引先へと赴いた。





しかし町の各所でYouはShockした私の噂はすでに広まっていたらしく、以前に盗賊ギルドとつながりのあった人間は戦々恐々としていたらしい。素晴らしいことに、この人は私の顔を見るなりゴールドを差し出してくれた。これがインテリヤクザのやり口よ。


店を出て歩いていると乞食に話しかけられたので、金貨一枚を恵んでやると仰々しく私を崇めた。いいことをするのは実に気分がイイものだ。




イケメン
ラグドフラゴンに戻りブリニョルフに話しかけると、話はすでに彼の耳に届いていたようで、ギルドへの正式な加入を認めてくれた。

「どうよ」

「やるじゃないか小娘。あいつらには結構手を焼いていたんだ。まあわかりやすく言うと、付き合いが長すぎてタカをくくられてたんだな。だがお前は俺でさえ躊躇うようなことをしてきっちり金を集めた。その金は好きに使っていいぞ」

遠回しに責められている気がする。もしかしてこのお金、私に殴られるから徴収しないんじゃないよね。流石に仕事の上司に手を上げるようなことしないのだけれど。


「え、でもいいの?」

「今回の目的は盗賊ギルドがまだまだ死んじゃいないことを触れ回ることだったのさ。だからお前はしっかり仕事を果たした。その金貨300枚はお前への報酬だ」
「じゃあありがたくもらっておくね。てっきり私に殴られたくないから受け取らないのかと思っちゃった」
「無邪気なガキが一番残酷ってよく言うもんだ。本当にその通りだ」
「えーそうかなぁ」
「そうだ。さてと、それじゃあ正式にお前をギルドに迎え入れるために、本当のアジトにご招待しようか」

ブリニョルフは私の背中を押して、ラグドフラゴンから連れだした。


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