2014年3月31日月曜日

謀略のデイドラ、メイビン登場 【14】

ため息混じりに秘密の入口のボタンを押す。人の頼み事を聞いて嫌な気分になるのは切ないものだ。何より、寝覚めが悪いし、快眠できない。
重い音をたてて作動する仕掛けなのだが、これでよく周りの住民に気づかれないなと思う。もっとも、気づいていても黙っているしか無い可能性もあるが。

テレレレ↑~(ゼル伝

ブリニョルフにゴールデングロウ農園の件を伝えると、「ハァ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚く。


「メイビンと手を切るにはこれが一番手っ取り早いからじゃないの?」

後ろ手に手を組みながら呑気にそう言うと、ブリニョルフは「まだわかってないようだな」と溜息をついた。全くもって近頃はため息が多い。昨日の一家の件もそうだし、不景気な話ばかりだ、スカイリムも。

「メイビンと手を切るということがどういうことか、お前にもわかってないはずじゃあるまい?」


「哀れアリンゴス、ソブンガルデで安らかに、ってところかな?」
「まあそんなもんだ。ところでアリンゴスの取引先が誰かわかるか?」
「わからないなぁ。その契約書に書いてあることしか」


「この記号がなんだかわかればいいんだがな」
「そうだねー。デルビンにでも聞いてみたら? 最年長でしょ」
「そうするとしよう。ところでお前に新しい仕事が来ている。あのメイビン・ブラックブライア直々のご指名だ。上手くやれよ」
「げっ! なんで私みたいな新人にやらせるの? あんた達暇なんじゃないの?」

周りを見渡すと、他のギルドメンバー達は各々訓練や雑談をしている。私の視線に気づいたサファイアという女性は、こっちにウィンクをして去っていった。どうやら誰もやる気はないらしい。

「最近また仕事が舞い込んできていてな。割とてんてこ舞いなのさ。そうは見えないのは、全員プロで仕事が手早く、やることをきっちりこなして休暇中だからだ」
「ハイハイ。どーせ新人の使いっぱですよ。でも生きて戻れるの私。ゴールデングロウ農園の件に関して大して収穫がなかったから殺されるんじゃないの。まだ死にたくないんだけど……」

笑ってごまかしてるけど怖いわ

「怖いこと言わんといてよ」
「冗談だ小娘。さぁ、さっさとメイビンのところに行くんだ。あの女はすべてが自分の思う通り迅速じゃないと気が済まないタチなんだ」
「りょうかーい」

街の宿屋の二階でメイビンと落ち合うと、私の姿を見てさっそく毒舌を吐かれた。

「そう。それで盗賊ギルドは大切なパトロンの私の仕事に、あなたのような年端も行かない子供を差し向けてきたわけですね?」

下は富士山、上は大噴火

「失望させてしまい申し訳ありません、マダム」
「今まさにそう言おうとしていたところですよ。手間が省けて大変結構です。ブリニョルフはまたしても気骨のない意気地なしを寄越したというわけですね」
「うちのギルドは信用されていないようですね」

ババァは着る服を選べ(切実

「信用など裏切られた時に対応ができない愚か者のすることです」
「それは素晴らしい心がけですね」

笑顔でババアを持ち上げつつ、よくそんなんで事業を広げられたな、と思う。ただの暴君だな、このババアは。巷じゃデイドラの一種だとか言われているのも納得がいく。謀略を司るボエシアの信者か、ボエシア本人だろうこの性格は。

「ところでどこからはじめましょうか」


「なるほど。大まかでいいから説明していただけませんか」

すると彼女は大仰に、いかにも勿体つけて私に見せびらかすようにため息をつくと、ワインを一口飲んで語り始めた。

「あなたのような子供にわかりやすいように話をしてやりましょう。うちの商売敵のホニングブリュー蜂蜜酒醸造所が最近業績をあげています。その妨害を行うという話です」
「わかりやすい説明をどうも。そこの経営者は?」


「ハッ! そのろくでなしに一杯食わされてるんだからあんたも相当な……」

そこまで言ったところで思わず目を逸らす。視線だけで肌が焼かれそうだ。沈黙に耐えかねて、もう少し知的にものを言おうと思い直す。

「つ、つまりあなた様のような手腕の経営者とライバルになるのだから、向こうも相当なやり手のようですね。あなたが自ら動くくらいですから、こっちを潰そうとする勢いで仕掛けてきてるのでしょう?」



「なるほど。事情はよーくわかりました。それではこのへんで失礼します」
「待ちなさい」

すたこらさっさと逃げようとする私に、メイビンは後ろから声をかけてくる。恐る恐る振り向くと、獲物を狩るときのオオカミのような眼光が私を射抜いた。

「な、なんでしょうか」
「確実に、やるのですよ」

微かに口元を歪ませて、だが威圧感を保ったままの瞳。まるでその言葉が呪詛のように感じられて、私は適当に返事をして、ドラゴンに襲われた時のように脱兎のごとく駆けだした。

宿から出てトボトボと歩いていると、熱心に槌を振るう鍛冶屋が目に写った。バリマンドだ。その時の私の気分は最悪だったため、バリマンドに何かしてもしかたのないことだった。そう、仕方のないことなのである。

「バリマンドさんこんにちは」
「あ、ああ」

私の方を向かずに返事をしたバリマンドにむかつきながらも、手元で作っているものに目を奪われる。

「なにそれ」
「いやこれは」

返事を聞く前にそれを奪い取り、手でバトンのようにくるくると回す。木製の板に鉄の筒が付いており、見慣れぬ仕掛けが沢山付いている。

「これってなに?」
「それは最近開発された銃ってもんだ。遠い異国の集団が持っているらしく、設計図が手に入ったから作ってみたんだ」
「どう使うの?」
「この紙に包まれた火薬と弾を先っちょから突っ込んで、火打ち石を起こし、その小さな出っ張りを指で引いてみろ」
「こう?」

次の瞬間、凄まじい爆音と共にバリマンドの足元の石畳が砕け散った。

「馬鹿野郎! 気をつけろ!」
「うっさい! こっちだってびびったよ! これ何!?」

手に持った銃を持ったまま思い切りバリマンドのスネを蹴り飛ばす。

「銃だと言っているだろう! 火薬で鉄を飛ばすものだ」
「弓とは違うわけね。うるさいし」
「そうだ。その代わり威力はすさまじいぞ」

たしかに素晴らしい威力だ。弓じゃ石畳を砕くことなんてドワーフの弓でもない限り難しいし、私に扱えるものじゃない。ただ、これなら反動にさえ気をつけていればなんとかなりそうだ。

「いいじゃんこれ、ちょうだい!」
「1000Gだ」
「案外安い」
「お前みたいな子供に払えるのか?」
「払ったろーじゃん。これでも一端の盗賊さ」

1000G入った袋をバリマンドの顔面に投げつけると、顔をしかめながらそれを数え始める。

「確かに1000Gあるな。いいだろう、持っていけ」
「やったー!」
「それにしてもお前が金を払うとはな」

ライフルを両手に掲げて跳ねまわっていると、しみじみと彼が呟く。

「常連になるって言ったでしょ?」

にやりと彼に笑いかけると、肩を浮かせて微妙そうな顔をしていた。


自宅に戻って飾ってみる。

0 件のコメント:

コメントを投稿