2014年3月8日土曜日

斬首台から動き出す 【3】

まじまじとみると優しげな顔をしている

屋内に入った私は、ハドバルに縄を切ってもらってやっと一息つくことが出来た。

「あのドラゴンの襲撃、とても偶然とは思えない。ウルフリックの仕業かもしれない。お前はどう思う」

縄を解いて背伸びをしている私に、ハドバルは神妙な顔をして話しかけてくる。


「なんでそう思うのさ。ウルフリックにそんな力があるわけ?」

「ウルフリックにはシャウトを使う力があるんだ」


シャウト? 

そもそもスカイリムのこともドラゴンの事も全く知らない私には、全てがチンプンカンプンだ。
だがそのシャウトとドラゴンが関係している、ということは理解した。

「そのシャウトがドラゴンとどう関係するの?」

「シャウトはそもそも人間の言葉ではない。魔法といったほうが近いな。元々はドラゴンの言葉で、特別な力を持つ。ウルフリックには特別にそのシャウトを唱える才能が有るらしい。きっとウルフリックがシャウトを使ってどこかに生きていたドラゴンを呼んだんだろう」
「へー」
「とにかくここから逃げるために鎧と剣を取れ」
「は?」

自由を満喫していて、話しながら強張った体を体操でほぐしている私は、突然の戦闘要請に至極驚く。それもそうだ、こっちはまだ貫通もしちゃいない、いたいけな少女なのだから。


「私に戦わせるん? この子供に!?」

「そうだ。俺がお前くらいの年の頃には、帝国兵に稽古をつけてもらっていたものだ」
「お前と私を一緒にするな」
「そもそも内戦中のスカイリムに徒手空拳で歩いて国境越えようとしたくらいなんだ。それなりの心得はあるんだろう?」
「……まぁその通りなんだけど、腹立つなぁ」

せっせと帝国の鎧と剣を手に取る。



ハドバルをガン睨みするエルゥ
「じろじろ見ないで欲しいんですけど」
「いいものはいいなぁ」
「後であんたの資産の一部を貰い受けるからね」
「生きて出られたら考えておこう」
人の着替えシーンを見ておいてふてぶてしい。


ハドバルVS反乱軍。なお、エルゥは見ているだけの模様

しばらく進むと、逃げ込んだ反乱軍の兵士と真っ向から相対することとなった。

話し合いで何とかしてみると意気込んだ良識派のハドバルだが、いきなり剣を抜かれてはどうしようもなく、結局のところ斬り合いに発展した。
途中何度かハドバルに

「戦え小娘!」

とか言われたが全て無視して悲劇の少女よろしく座り込んでいた。


冷たい視線を食らう
「何その目。子供を守るのが帝国兵のお仕事だと存じ上げておりますゆえ、公務の邪魔をしてはいけないと身を引いた所存ですが」
「戦槌背負ってるお前のような子供がいるか。次に味方をしなかったら置いていくからな」
冷たい視線と言葉を投げかけてハドバルは先を歩いて行ってしまう。
それから砦が崩れたり


なんちゅー脆い砦じゃ
ハドバルの獲物を横取りしたり
拷問室で一悶着あったりした
「長い剣のほうが使いやすいね。リーチがあるってそれだけでアドバンテージだよやっぱり」

拷問室で手に入れたクレイモアを構えながら、感慨深く呟く。


「よくもそんな重い武器が使えるな。お前、本当にただの子供か? デイドラじゃないのか? 見たところ、戦なれもしているようだし」

「タムリエルからここまで歩いてくるのに、武器の扱いも出来ないで来れるわけないじゃない。両手持ちの剣の扱いの仕方は、父に教えてもらった唯一の戦闘法なのよ」
「ならなぜ最初は戦わなかった」
「男の人が戦ってるのって、やっぱりかっこいいかなって」
「そうだろう。だが俺も戦う異性が好きでな。次からはもっとよく見せてもらおうか」

おだてて戦闘を楽にしようという目論見は儚くも崩れてしまった。


「それより、いつも砦の中でこういうことをしてるの? ドラゴンが攻めてきてるんだし、切り上げて逃げることに専念するのがいいと思うんだけども」



脳髄まで耄碌した拷問バカ
「反乱軍から情報を引き出すのも帝国の立派な公務の一つだ。それにドラゴンだなんて、バカを言うんじゃない。まぁお伽話を信じるのも仕方ないかの、その歳じゃあな」
「拷問には詳しいようだけど、現状を把握するのは不得意みたいなのねジジィ。そのままここで干からびるといいわよ、あんたが殺した骸と一緒に」
「そうだ爺さん! ドラゴンが攻めてきているのは妄言なんかじゃないぞ。この小娘だけが言っているんじゃない。ハドバルも、さっき押し入ってきた反乱軍も口にしていただろう!」

突然、この爺さんの助手が割り込んできてまくし立てる。この助手、ハゲているが中身まで見た目通りではないらしい。

だがこの爺さん、どうしても信じられないらしく、この場に残ると言い出した。職務に立派なものだ。歳を取るにつれて現状認識能力と対応力が減っていくというのは本で読んだことがあるけれど、どうやら事実らしい。

「もういい。おいハドバル。俺はここから逃げ出すぞ、連れて行ってくれ」

「もちろんだ。一緒に切り抜けよう」

しかしこの助手、次の戦闘が終わった時には

「俺、やっぱり歳だわ。無理」

と言い放つ。


老いを実感したのだろうか。


なんだかんだ言ってあの爺さんが心配な心優しきハゲ
「あの人、結局逃げなかったね」
「仕方ない。上司を置いて自分だけ逃げるのは、格好がつかないと思ったんだろう」

ぽつりとハドバルに話しかけると、ハドバルは彼のことを否定しなかった。


「立派だね。でも死んだらどうにもならないよ」

「……お前にはわかるまい。あいつにとって、あの爺さんが親のようなものなんだろう。それを置いて逃げることが、どれだけ辛いことか」

その瞬間、背負った剣に自然と手が伸びた。怒りに身を任せて、ハドバルを後ろから斬り伏せそうになったのだ。だが、柄を握ったところでなんとかそれを抑える。


「知った風なことを言わないで。タムリエルからここに来るってことが、どういう意味を持っているか、少し考えればわかるでしょ。家が焼かれたことある?」


突然の怒りのこもった言葉に、ハドバルはぎょっとした顔で私を見た。

一度だが、帝国はエルフの国、アルドメリ自治領によって壊滅状態に陥った。それから現帝国王が首都を取り戻したが、多くの地域は焼き払われ、不平等な条約を結ばされ、現在の帝国は実質、アルドメリの傀儡政権なのだ。もちろん、私の家も母もすでにいない。親父は逃げた。
故郷を捨てることがどういうことか、体験しないとわからないバカでもないはずだ。

「悪かった。すまない」

「よかった。謝られなかったら、さっきの反乱軍みたいに斬ってた」
「今度からは気をつけるよ」
「あとでしっかりお返ししてもらうから」
「おい! まだ何かを俺から奪い取ろうって言うのか!?」
「もちろん。人のことを冤罪で処刑しようとした上に着替えをまじまじと見て、さっきの心無い言葉。私はもう家出しそうなほどに傷ついたわ」
「もうしてるだろ」
「だまらっしゃい。家がなくなったら家出とは言わない」
「わかったわかったよ。出来る限りのことはしてやる」
「ありがとう。やっぱりあなたはいい人だわハドバル。じゃ、先に進みましょう」
「本当にガキかこの子供」
「ガキにだっていろいろあんのよ」


ハドバルにほとんど任せた
「おい! なんで戦わなかった! 俺にだけあんな糞野郎共と戦わせやがって!」
「ごめん。本当にごめん。でも蜘蛛だけは無理。エルフと同じくらい大っ嫌い。次から弓くらい打つから」
「子供らしいところもあるんだな」
「子供だから。そんなことより、出口みたいだよ!」


久方ぶりの空
外に出て空を見上げると、ドラゴンが悠々とどこかへ飛んで行くのが見えた。またどこかの町を襲いに行くのだろうか。忌々しい爬虫類め。だが、そのドラゴンに命を救われた一面もあり、一辺倒に憎むことの出来ない自分もいる。ハドバルは見つからないように隠れていたが、私はあのドラゴンが背の高い山々を飛び越えていくのを、じっくりと見つめてしまっていた。
「あーあ。もう前みたいに空を眺めて旅なんて出来ないや」
「いきなりどうしたんだ?」
「だって、いつ空からあいつが降りてくるかと思うとね……」
「確かにな。俺もそうだ。そういえば、お前の名前を聞いてなかったな。処刑者リストにも名前がなかった。今更だが、教えてくれないか」
本当に今更だなぁ、と思いつつも私は親から貰った大切な名前を声に出す。
「エルゥだよ。エルゥ、エンデューロ」
「珍しい名前だな」
「さぁ。どこの国の言葉やら、自分でも皆目見当つかないね」
「まあいいさ。さぁ、さっさと俺の故郷に向かおう。ここから近いんだ。歓迎するぞエルゥ」
「また歩くのか……」
子供の足には辛いよ、と心の中で呟きつつも、私は地面を踏みしめた。
冷たくて、岩だらけの土地。だけど、このどこかに父はいる。
絶対ぶん殴ってやる。
そう思うと、いつの間にか自分の足取りに力がはいるのを私は感じた。

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