2014年3月12日水曜日

盗賊の酒場 【9】

ラットウェイの中は住民の噂通りゴミためといった印象だった。私を見て金になると襲いかかるだけなら飽きたらず、死体にしてからたっぷり犯してやるぜと剣を振るってきた。


ゴミは
ゴミ箱に
拳で語り合う気はない
そんなこんなで掃き溜めの害虫共をしっかり駆除しながら奥へ奥へと進んでいくと、扉があったので開いてみる。すると突然視界が開けた。どうやらここがラグドフラゴンらしい。


案外綺麗な場所
バーも営業中のようだ
なかなか雰囲気はいい
まさか都市の下にこんな犯罪集団のアジトがあるなど、誰が予想するだろうか。なんだか意外とアットホームな雰囲気で、殺伐とした空気はあまり感じない。昨晩止まった酒場のほうが、よほど空気が悪いくらいだ。

だがそれでも多少はもめていることもあるようで、着いた直後にはギルドの存続がどうこうと話していた。

「このままじゃうちのギルドは歴史の闇に消えていくことになるぞ」

デルビンというハゲがブリニョルフにそう申し立てている。話を聞くに、盗賊ギルドというたいそうな組織は、今ここに至ってはあまり状況が良くないらしい。新人の減少や、取引先が極端に減っているそうなのだ。

「希望の光などない? ならばこれはどう説明するんだ」

横に立っていた私の腕をひっぱると、私の頭をぽんぽんと叩いた。

「誰だこの小娘は」

とハゲが尋ねる。

「驚けデルビン。こいつはうちのギルドの新人候補だ」
「ほう。この子供がか」
「ほら挨拶しろ小娘」
「この度、このブリニョルフという男に勧誘を受けて盗賊ギルドに志願しました。エルゥ・エンデューロといいます。よろしく」

久々に子供扱いされて複雑ながらも、初めが肝心だと思いしっかりと挨拶をする。

「本気で言っているのか? こんなガキが希望だと?」

ブリニョルフに厳しく問い詰めるデルビンは、今にも剣でも抜きそうな勢いだ。使えそうな新人が来たと思ったら、年端もいかないガキでは確かにそうなるだろう。だけれど私にも意地がある。

「脚折洞窟のハグレイブンって知ってる? おじさん」
「知ってるが、それがなんだ」
「あれ、リフテンに来るまでに始末したよ。それと、今日ブラン・シェイが捕まったけど、あれをやったのも私。盗賊ギルドに加入する最低条件は満たしていると思うのだけど?」

そう言うと、デルビンはしばし考えこむ。それからゆっくりと口を開いた。

「ハグレイブンの件は事実の確認など出来ん。まあ、このメンツの中で嘘をつけるのならそれはそれでいい度胸をしている」
「そうだろう。こいつな、俺に初めて会った時に俺をゆすりだと思ったのか、笑いながら取れるもんなら取ってみなと言わんばかりの行動をしたのさ。その辺の子供にやれることじゃないだろう?」

私の頭をぐりぐりと撫で回しながら、デルビンを説得するブリニョルフの眼光には、意外なことに打算は見えなかった。つまり、私が子供であることに、こだわっていないのだ。

これには驚きと、喜びが同時に沸き上がってくるのを感じた。自分のことを認めてもらえるというのは、これほどまでに嬉しいものなのかと。

「そうだな、認めてもいいがもう一仕事こなしてもらおうか」

デルビンは私の頭の高さに腰を落として、目線を落としてゆっくりと告げる。

「えーっ! これで認められたと思ったのに!」
「なに、簡単な仕事だ。上の商店の連中が借金を俺達にしているのに払ってない。それを取り立てて来るだけだ」
「なにそれ。私もクズだと他の人に知らしめることになるじゃない」
「このギルドに入りに来ようとする時点で悪党だ」
「私はパパの消息を探しに来ただけだし!」

するとデルビンは訝しげな目でブリニョルフを見る。バトンタッチと言わんばかりにブリニョルフが私の頭をなでた。

「なあエルゥ。こう考えたらどうだ? どんな悪名だろうと轟けば、お前のパパがお前を見つけてくれるかもしれないだろう」

一理あると思った。

「目的のために手段を選ぶなってこと?」
「それはちょっと違うな。出来ることはなんでもするのさ」
言われて確かに、と思う。
「わかった。じゃあ取り立てに行ってくる。でもその前に聞かせて」
「なんだ?」

なんでも言ってみろ、と言わんばかりにブリニョルフは私を見下ろす。

「すんごく偏屈でハゲてて意味の分かんないことしゃべりまくるおじさんのこと、知らない?」

彼はしばし考えた末に、少しばかり笑った。

「お前の親父さん、スクーマ(麻薬)で狂っちまったのか?」
「多分違うけど」
「その程度の情報じゃさすがにわからんな。それって狂人を探せってことと一緒だぞ。その辺にいくらでも転がってる」
「……そっか」
「まあ落ち込むな。俺達盗賊ギルドとお前の悪名をスカイリムに響かせれば、見つかるのなんざあっという間さ。さ、行って来い」
「絶対調べてよね!」

そう叫んで、私は自分の手に先ほどの盗賊から奪った手袋をはめる。気分だけでも、手は汚したくないからだ。

ラグドフラゴン。ここから私の盗賊としての人生が始まるなんて、その時はまだわかっていなかった。

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