愛の神なら悪人も神の愛に包まれるべき存在なのです、とか色々言い方があるだろうに。思うにこの人は必死でこの都市を良くしようと思っているのだろうが、悪人に悪人だと説いたところで心を入れ替えるはずがない。自覚してやっているものが大半だからだ。もしも自覚せずに悪事を働く人間がいるならば、それは常識が違う国で育ったか、ただの狂人である。
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目が怖い |
初めてアルゴニアンに出会ったので、最初は驚いてしまった。しかし彼が他の客の注文を受けたり、先ほどの司祭を追い出したのを見ていると、どうやら普通の人と同じように会話が出来るらしい。偏見というのを改めなければいけない。
とりあえず情報を集めようとこのアルゴニアンに盗賊ギルドのことを聞くと、予想通りの言葉が返ってきた。それにしてもこの都市、盗賊ギルドのせいでこうなったというが、それは多分半分くらいしか当たっていないのだろう。盗賊ギルドが勢力を拡大するには、必ず何らかの後ろ盾が必要だ。それを後押しした人間達が、今の自分たちの環境を作っているはずだ。結局のところ、彼らは自分達の無責任さと力の無さから逃げているようにしか私には思えない。
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そんなんだからしみったれのクソッタレな宿なんだよ |
一泊しようと女将に尋ねるとあまりにも即物的な物言いをするので頭にきてしまう。そんなんだから繁盛しないんだよ、と言いたくなってしまうがグッと堪えた。今日は疲れているし、口喧嘩をするのも面倒だからだ。
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馬小屋のほうがまだ牧草でふかふかだ |
案内された部屋は田舎の安宿と大して変わりはしなかった。これなら田舎のほうがよっぽどマシだ。なぜなら、汚い言葉を吐きかけられることがないからだ。
翌朝、宿から出ると突然男に話しかけられた。
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いろんな動画でイケメンと評判 |
「悪いけど、今なんて?」
「まともな手段で金を稼いだことなんて一度もないんじゃないかって言ったのさ」
「山賊を殺して金を稼ごうがなんだろうが、関係ないでしょ」
「それが間違いなのさ。金を稼ぐ事こそ俺の仕事だからな」
「何? 恐喝? ジャンプしたほうがいいの? いくらでも跳んであげるわよほら」
口の端をあげて跳ねると、荷物の中に入れたゴールドが綺麗な音を立てる。そんな私の姿を見て、この男は小さく笑った。
「豪胆だな。そんなお前にピッタリの仕事があるんだ。やってみないか?」
私は直感的に、この男は盗賊ギルドの人間だろうと気づいた。他所から来た私に突然話しかけ、仕事の依頼をしてくるなど普通ならありえない。そういうことは、信頼した人間にするものだ。
つまりこの男は、使い捨てられる人間を探しているのだ。不始末が起こったら、すぐに知らんぷりを出来る人間を。
そんな人材を必要とする組織など一つしかない。確実に、盗賊ギルドの人間だ。
「やってもいいよ。そしたらあなたの組織に入れてもらえる?」
「そいつは願ったり叶ったりだね。じゃあまず、仕事の説明をしよう」
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漂うヤクザの若頭臭 |
「あぁ。そいつが邪魔なのね。面倒なことをする」
「俺達は人の命まで盗まないことだけが誇りだからな」
「へーそうなんだ。まあいいや、やればいいんでしょ。ただ聞きたいこともあるから、それにも答えてよ」
「いいだろう。ただし、俺達を告発するつもりならお前が監獄に行くことになる」
「そんなんじゃないよ。ただの人探しだ」
「奇妙な奴だな。まあいいだろう。とにかく仕事を始めるぞ」
「わかったよ」
「聞き忘れていたが、鍵開けは得意か?」
「ピックが3本あったら4つの箱が開くと思ってほしいね」
「そりゃすごい。せいぜいその仕事ぶりを見せてもらおうか」
いそいそと自分の屋台に向かうブリニョルフを見ながら、ポケットの中で鍵開け用のピックを弄ぶ。鍵開けは得意なのだ。手に伝わってくる感触と、音さえ聞き分けられば難しいことはない。捻って、回すだけ。とある空中都市が舞台の物語の登場人物のように、華麗に鍵を開けることを約束しよう。
屋台で声を張り上げて胡散臭い商品の説明をし始めると、ブリニョルフの周りに見る見るうちに人が集まってきた。ファルメルの血液がどうとか、万能だとかしゃべっている。あんな商品で人を集められるんなら、彼には案外、商才があるのではないだろうか。
ブリニョルフの周りの野次馬の後ろでひと通り「わーすごーい」「そういうのがほしかったのー」とサクラをした後、素早くマデシというアルゴニアンの商人の金庫を開ける。中には指輪の他に結構な量のゴールドが入っていたので、それもついでに戴いていく。悪いことをしていると自覚すると、自制心などというものはあっという間に崩れてしまうことを実感した。
それから野次馬の列に戻って、目的の男のポケットにするりとそれを滑りこませる。
仕事が済んだとブリニョルフにウィンクして伝えると、彼は「今日はもう在庫切れだ、皆さんありがとう!」と叫んで客を散らした。
歩み寄ってくるブリニョルフに小さな手で輪っかを作ると、彼はやっと私に笑いかけた。
「やるじゃないか小娘。俺達の組織に加わるなら、地下のラットウェイという下水道を抜けた先のラグドフラゴンという酒場に来い」
「先に情報を教えて欲しいんだけど?」
「俺とお前がここで接触していたら、バレちまうかもしれないだろう」
遠くで衛兵がブラン・シェイを捕まえる声が聞こえる。
「それもそうね。じゃ、あとで行くから」
「待っているぞ小娘。影と共にあれ」
会話を終えると、彼はさっさとどこかへ消えてしまった。次に目で彼の姿を探した時には、すでにいなくなってしまっていたのだ。
「けっこー凄腕?」
そこら中を見渡してから、呆然と私は呟いた。
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