2014年3月24日月曜日

金色は暁に燃ゆ 【12】

と意気揚々と出る前に、盗賊ギルドの命綱、トリニアさんに呼び止められた。

「あんたが新入りかい?」
「そうだけど」
「だったらうちの制服を着な。反乱軍の鎧で仕事をする盗賊がどこにいるんだい」

いうことはもっともだ。そういえば聞き流していたけれど、ギルドの制服を渡すという話をしていた気がする。

「何か理由があるの? 同じ鎧で揃えているのには」
「もちろんさ。もしも見つかった時に、うちらの仕業だとわからせるためにあるんだよ」
「なんで? そんなことしたらギルドに不利益が出るじゃない」

そう言うとトリニアは「まだまだガキだねえ」と溜息をついて、詳しいことを教えてくれた。

「うちらが仕事をしたと証明するってことは、それだけうちらの影響力が増すし名も売れるのさ。盗賊がいつも隠れてせせこましく生きていなきゃならないなんてのは、ただの勘違いだよ。本当の悪党ってのは、もっと堂々と人前に出て仕事をするもんさ。それが当たり前のようにね」
「す、すごいりろんだ」
「メイビン・ブラックブライアを知ってるだろう? あの女は表向きまっとうな商売で稼いでいるように見せて、裏じゃ手広く犯罪で稼いでる。誰しもがそれを知っているのに、あいつは逮捕されないでしょ?」
「あ、あー確かに! でもなんでそんな目立つことをするの?」
「あんただってその片棒を担ぎに行こうってんだからわかってると思ってたけどね。ヤバイ奴に誰が進んで関わろうとするんだい。権力で押し潰されるだけさ。そうやって自分に手出しを出来ないように押さえつけて民衆を黙らせ、その権力を使って反乱分子を潰していけば、そりゃもう立派な王様みたいだろう?」
「なるほど……。私達はメイビンのようなことをしようとしているわけね」

トリニアはその通り、と相槌を打って、樽の中から盗賊ギルドの鎧を取り出した。

「あんたが失敗しようと成功しようと、これはプラスになるってこと。わかったらさっさとそれを着て仕事に行きな」
「はーい」

着てみると様々なエンチャントが施されており、かなりいいものだということがわかった。手先も以前にもまして器用になった気がするし、体が軽い。その割に鎧を構成する革は固くも柔軟で、ただの剣に切られる程度の事なら十分に鎧として使えるだろう。意外と露出が多いのが不満だが、きっとこれは悩殺するためなのだろうとなんとなく納得した。


お墓が秘密の入口
早速向かおうとした私だったが、その前に鍛冶屋のバリマンドのところに寄った。

「バリマンドさん、私の評判聞いた?」
「……」

だまり続けるバリマンドは私がそこにいないかのように振る舞ったので、首根っこを掴んで壁に叩きつけてやった。いい気味だねえ、いい年したおっさんが屈服する様というのは。

「バリマンドさん、言ったよね。リフテンで有名になったら考えてやるって」
「あ、ああ……」
「約束を覚えているならさっさと出すもん出せ」
「アイエエエ!」

下からえぐり込むような捻りを付けたアッパーで腹をぶん殴ると、バリマンドはゲロを吐きながら壁にかかっている刀を指さした。

「くれるのね。ありがとう」

コクコクと頷くバリマンドをよそに刀を取ると、私はうっとりとそれを眺めた。

「いい仕事よバリマンドさん。これから常連になろうと思っているから、困ったことがあったらなんでも言ってね。私、あなたの技術だけは買っているから」
「アッハイ……」

未だにえづきながら地面に這いつくばるバリマンドの上で刀を振ると、重々しい風切り音を立てる。これなら滅多なことでは斬り負けることはないだろう。
それにしても、自分が盗賊だと認識して衣装まで着ると、心機一転で生まれ変わったような気さえする。ついこの間までの弱気な自分とはおさらばだ。このスカイリムで生き抜くには強くなくてはいけないのだから、当然のことである。
当然である。

ここがあの女のハウスね
ゴールデングロウ農園はリフテン(盗賊ギルドの街)のそばの湖にある孤島だ。逃げにくいし攻めにくい、なかなかうざったい作りをしている。おまけに岸壁が私の身長では登れない高さで、まともな出入口は船で入ることくらいしか無い。
湖を泳いで渡る。スカイリムの水はとても冷たく、普段なら死にかけそうになる。だけども事前に錬金術屋で低音への耐性をあげる薬を買っていたので、それほど苦労せずに渡り切ることが出来た。見張りは結構間抜けなようで、私が泳いでいるのに気づいたようだが水浴びをしている程度にしか思わなかったのか、すぐに視線をそらしてしまった。


ここがヴェックスが言っていた入り口だろう。

血が染み付いている

中には同じように下水道に忍び込んで殺された盗賊仲間の末路があった。だがギルドからはこの先駆者の話は聞いていないので、きっとフリーの盗賊だったんだろう。


中には罠が仕掛けられていたが、大したものではなかった。というか、ネズミが自分から罠に突っ込んで吹っ飛んだのには笑ってしまった。所詮ネズミ、ドブネズミである。

カジート(猫人)の崇拝対象である月

下水道を抜ける頃には夜になっていた。ちょうどいい、闇と共にあるのが盗賊だと二百年前の盗賊も言っていた。



裏口から消音の魔法をかけて忍びこむと、眠そうな見張りが数人いるだけで大したことはなさそうだ。そろりそろりと忍び歩きながら、まずは地下金庫にある取引に関する書類を盗み出そう。

汚い地下室だなぁ
お目当ての金庫を発見
金庫を見つけて舌なめずりをしながら、その鍵穴にピックを差し込む。
「チョチョイのチョイな」
実際簡単である。



中には取引に関する重要なことが書いてある書類を見つけた。
アリンゴスはこの養蜂場の権利を誰かに売っぱらったらしい。だがその誰かはわからない。分かるのは代理人がガラム・エイという人間であることだけだ。
つまりアリンゴスは盗賊ギルドからの束縛から逃れるために養蜂場を売ったということなのだろうか。だがこれではメイビンはハチミツを手に入れることができないので、事態はわずかにしか好転しない。これは結構根が深いことのようだ。相手側も盗賊ギルドからの報復を恐れているあたり、アリンゴスとギルドの繋がりや、ギルドの内部事情にも詳しい者のようだ。
「つまり、元ギルドメンバーとか?」
独り言を呟いて、書類をポッケにねじ込む。地下室の出口はまた下水につながっているようで、きた道を戻ることなく帰ることが出来た。


今度は蜂の巣を燃やすために小島の外側から回りこむ。見張りは交代の時間なのかおらず、すんなりと蜂の巣に近づくことが出来た。
いざ蜂の巣に近づき、火を着けようとしたところ突然怒声が聞こえた。見つかったのだ。
手早く魔法で蜂の巣に着火し、ええいままよと湖に飛び込んだ。


鎧が水を吸って重くなる。ひたすら逃げ延びようと、何度も湖のそこに潜って目をくらませた。幸いにも矢が跳んでくるだけでそれ以上追いかけられはしなかった。だが自分の顔の横を矢が通り抜ける風切り音など、二度と聞きたくない。
ネオサイタマ炎上


しばらく泳ぐと、製材所が見えてきた。今夜はここで休んで夜を明かそう。


次回予告
昨日の夜、全てを失くしてスカイリムの雪に濡れていた。
今日の昼、命を的に夢買う銭を追っていた。
明日の朝、ちゃちな信義とちっぽけな良心が、製材所に希望を蒔く。
リフテンは内戦が作ったパンドラの箱。
質を問わなきゃ何でもある。
次回「救出」。
明後日、そんな先の事はわからない。

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