スカイリムでは現在、内戦が起こっている。ノルド、つまりスカイリムに古来から住んでいる人種であり、スカイリムの住人である。彼らがノルドを統治するべきだと主張し、帝国の属国から抜けだそうとする反乱軍。
そしてエルフに一度は侵略されながらも、それを押し返してなんとか自治を保っている帝国軍だ。帝国軍はスカイリムと同盟を結び直せば再びエルフと戦うことが出来ると考えているのか、この国を自分のいいようにしたいと必死なのだ。
「内戦中だって聞いてたけど、そんな理由があったんだね」
「そうだ。我ら帝国軍は、エルフが様々な国々を侵略しようとしているのを防ぐために存在している。付け加えると、エルフ……つまりアルドメリ自治領は、他の国にも侵略しようとしている。許しがたいことだ!」
歩きながら弁に熱が入るハドバルは、自分の軍を信じきっているようにみえる。だからこそ、帝国軍に入ったのだろうが、それは危うい気がする。確かに私の家はエルフの国に焼かれた。帝国の象徴である白金の塔が戦火で黒く焦げていくのは、今でも夢に見ることがある。だが、だからといって他の国の力を自分のもののように扱っていいわけではない。自分の国の力で跳ね除けられないような国など、滅びてしまうのが当然なのだ。
幸いにも私はエルフの血が入っていると思われ、強姦されることも殺されることもなかった。だがエルフから見ても、私がどんな人種なのかはわからないようだ。この長い耳と、成人男性並みの筋力。母は、私が子供の頃に他の子と違うね、と言った時も何も言わなかった。
そんなことを考えていると、母の最期の言葉が急に頭の中で蘇る。
「お父さんに会ってあげて。許してあげて。スカイリムで、あなたを待ってくれているから」
そんな言葉を残されてどうすればいいのか。
いつも家におらず、何も教えてはくれず、母の死に目にも会えなかった父をどうして許せるというのか。どうしてあんな重い言葉を私に残したのか。母があんなことを言わなければ、こんな雪国で震えることも、首を切られそうになることも、人を殺めることもなかったろうに。
「大立石だ。お前も何か選んでおけ」
「え?」
思いつめた顔をして考え込んでいた私の心情を察して黙っていたハドバルが、突然私に話しかけてくる。よほど重要な事なのだろう。
「これのこと?」
「そうだ」
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後ろにある三本のが大立石(大守護石) |
「なるほど。そうだなぁ」
薄ぼんやりと返しつつも、頭の中はそう簡単に切り替えられはしない。
「お前の歳で難しいことを考えこむのは似合わないぞ。子供は子供らしく、遊んでいろ」
ハドバルの言いたいことはわかる。きっと、沈んだ顔で考えこむのはやめておけと言いたいのだろう。思えば、スカイリムに向かう途中もずっと同じことを考えていた。地面ばかり見ているようで、その実何も見ずに道を辿って足を動かしていた。
「そうだね。そうするよ」
「お前は本当に子供らしくないな」
素直に認めると、ハドバルは呆れたと言わんばかりに私のことを見つめる。
「そんなに私を子供扱いしたいの?」
「もっと楽しむといい。例えばここからの景色だ」
そう言われ、顔を上げて改めて眼前の景色を見やると、確かに素晴らしいものだった。先ほどまでの暗い気持ちが、一瞬だが和らぐような気になる。こんなふうに景色をまじまじと楽しむことなんて、最近になってやっと思い出した。
「ありがとう」
「どうした?」
「久々に景色を眺めたな、と思ってね」
「そうか。ところで話を戻すが、何を選ぶ」
「盗賊にするよ」
すると驚いた顔で私を見てくる。
「なぜだ?」
「父さんを探しに来たの。ここには。父さんはいつも家にいなかったし、友達の話も聞かなかった。その割に妙な知識をひけらかす人だった。だからぶっちゃけると、暗い場所にいると思って。暗い場所でも、近づけば見えるものがあるかもしれないから」
「なるほどな。あまり好ましくはないが、そういう理由があるならいいだろう」
ハドバルは案外頭が硬くはない。その割に、帝国に忠義を感じている。私は帝国人だから嬉しいけれど、本当にそれでいいのかな、とは思う。だが、彼なりに考えて出した答えなのだろう。それを私が否定することは、とても失礼なことだ。
「さっさと先に行こう。ハドバルからもらわなきゃいけないものもあるし」
「お前、本気だったのか」
「もちろん。いただくよ」
そう宣言し、私は遠くに見える村の煙めがけて、小走りで向かった。
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